目 的:A15型化合物の主な磁束ピン止め中心は結晶粒界である。一般にNb(V)基材への拡散反応でA15型化合物を層状に生成するテープ線材では,A15相・結晶粒が柱状にテープ面に垂直に成長する。したがって,テープ面に垂直に磁場を印加すると,磁束線が動こうとする方向での粒界密度が平行磁場を印加した場合よりも高くなるので,Jcが大きい。柱状晶を楕円形(b/a:軸比)に近似して磁場とテープ面の角度をqとすれば,その表面のローレンツ力方向への投影面積がJcに比例することからテープ線材のJcの磁場方位角度依存性は次式のようになる。
一方,最近,我々は,複合加工法V3Siテープ線材において,Jcの磁場方位角度依存性でお互いの位相差が90度ずれた2種類のピークが現れること,したがって結晶粒界以外にも超伝導(S)-常伝導(N)界面が有効なピン止め中心になることを明らかにした。本研究では,種々のA15型化合物テープ線材についてJcの磁場方位角度依存性を測定し,S-N界面によるピン止め機構について考察する。
方 法:Nb3Snは複合加工法,V3Gaは複合加工法と表面拡散法,V3Siは改良した複合加工法,Nb3Alは変態析出処理及び通常の低温熱処理によるロッドインチューブ法でそれぞれ最終熱処理前に冷間平ロール圧延を加えてテープ状を成形した。これらをAl2O3板に挟んで熱処理しA15型化合物層を拡散生成させた。15T超伝導スプリットマグネット中で測定プローブを回転させて, qを-90度から+270度まで変化させて(回転精度0.25度/360度),試料の臨界電流Icを計測した。
結 果:V3Siと同様にNb3SnとV3Gaにおいても磁束線の結晶粒界とSN界面でのピン止めに起因する2種類のJcの極大がその角度依存性において観察される(図1)。特に長時間熱処理後,典型的な柱状晶が成長してなめらかなSN界面が得られるV3Gaの場合には,SN界面ピンニングに対応する平行磁場(0,180度)でのIcの極大ピークがきわめて狭い角度範囲(5度)でのみ現れる(図2)。しかも,この角度範囲内でのみ,1回目に比べて2回目のIcの値が1割以上も高くなるIcのヒステリシス現象が観察された。この現象は最初の電圧フローで磁束線がより強いピン止め中心へ再配置することを示唆する。柱状の結晶粒界と化合物層界面(SN界面)をお互いに直交する2種類の楕円状界面であると仮定すると,
が得られる。(1)上式において楕円界面のアスペクト比に対応するb/aをフィッティングパラメータとすると, bSN/aSNがV3Siで0.3,V3Gaで0.001のときに良好な一致が得られることが判った。平行磁場で現れるピークの角度範囲は界面の局所的な凸凹反映した有効アスペクトを反映すると考えられる。
(参考文献)
1. T. Takeuchi et al. Adv. Cryo. Eng., 42:1391 (1996).