目 的:過飽和固溶体からの変態析出反応を利用することにより、微細な結晶粒組織で化学量論組成を有するNb3Al極細多芯線の製造が可能になった。この変態析出法Nb3Alは,低温で直接拡散反応を行う従来のNb3Al線材と比較すると、高磁界での臨界電流密度が極めて高い。しかし、一般に、完全結晶の物質ほど歪み感受性が高いと考えられる。そのため変態により作製した化学量論組成のNb3Alの耐歪み特性は,低温熱処理したロッドインチューブRIT法やジェリーロールJR法Nb3Al線材よりむしろ悪くなる恐れが,一部の研究者から指摘されていた。本研究では、変態析出させたNb3Alの歪み感受性が、 Nb3Alの普遍的な性質としてやはり鈍いのか、あるいは結晶性の完全性のためにかえって鋭くなるのか明らかにする。
方 法:RIT法及びJR法で作製した2種類のNb/Al複合多芯線をそれぞれ加熱急冷後変態処理して測定試料とした(表1)。銅メッキしたNb3Al線材を真鍮製の”コ”の字型のバネホルダーに半田付けし,4.2Kで10-16Tの磁場中でこのホルダーの支柱間隔を変えて外部歪みを線材軸方向に加え,この状態でIcを測定して耐歪み特性を評価した。
結 果:図1に10-16TでのIcの外部歪み依存性を示す。図中の記号脇の添え数字は,時系列で整理した歪みの履歴を示す。図2(b)に示すようにRIT法とJR法を比較して歪みによる超伝導特性の劣化の程度にはほとんど差が認められない。しかし,Nbマトリックス比の小さいJR法Nb3Al線材(表1)の方が歪み履歴によるIcの不一致が目立つ(図1(b))。Ic-歪み曲線でIcが極大になるところは,主に真鍮バネホルダーと試料との熱収縮率の違いから生じる冷却圧縮歪みと外部引っ張り歪みが相殺して,Nb3Al化合物が実際に感じる固有歪みが零になるところと解釈できる。そこで図2(b)では固有歪みに対して12TでのJc()の値をJc(0)で規格化して再プロットしている。-0.7%の固有歪みに対するBc2*の劣化はわずか8%である。さらに,実用的に重要な12TにおけるJcも-0.7%の固有歪みに対して20%の劣化が観察されるだけである。Bc2*,Jcとも,通常の低温で熱処理したJR法Nb3Alと同程度の劣化の程度であった。したがって,変態処理したNb3Al線材は,高磁界でのJc特性が格段に優れているにも拘わらず,従来熱処理のNb3Al線材に匹敵した優れた耐歪み特性を保持すると結論できる。
strand diameter (mm) | ||
filament (bundle) size (m) | ||
filament (bundle) number | ||
Al-core diam. or Al-layer thickness (m) | ||
Nb/Al ratio | ||
Nb/SC ratio | ||
twist pitch (mm) | ||
transformation heat treatment | ||
critical temperature (K) | ||
lattice parameter of Nb3Al (nm) |
図1変態処理したNb3Al線材の外部歪みによるIc及びoverall
Jcの変化。
図2 変態処理したNb3Al線材のBc2*とIc(4.2K,12T)の歪み依存性。従来のNb3Al線材やITER用Nb3Sn線材と比較するために固有歪みで整理している。