松下 照男低温工学・超電導学会フェロー

氏名松下 照男
専門分野・
研究テーマ
磁束ピンニング機構とそれに関連する電磁現象
低温・超電導の魅力  電気抵抗がない状態が実現できるのが最大の魅力で、重要な技術として社会に役立てることができる。また、学問的にも超電導の完全反磁性からは電気抵抗が0でなければならないことがマクスウェル理論から示され、エネルギーの最小化の第一原理によって記述されるという理想的な物質であることも魅力の一つ(電気抵抗の方が理論的に証明されていない)。
研究成果・エピソード  研究成果は、ピンニング理論の統一、縦磁界効果の解明、磁束クリープによるピンニング特性の劣化など。一番目では、ピン力は磁束線とピンポテンシャルとの位置関係によりあらゆる方向に向き、0ではないピン力を理論的に導くことは難題であったが、これを平均場近似理論で解決したことなど。二番目は長さ方向の磁界中の超電導線に通電した時に観測される現象で、通常の臨界状態モデルでは説明できない。特異性は生じる電界Eの方向が磁束密度Bの方向に近く、ジョセフソンの式E = B × v が成立しないこと(vは磁束の速度)や電圧状態で負の電圧が観測されることなどで、これらを説明した。三番目は磁束のクリープ率や不可逆磁界の計算を可能にしたことで、不可逆磁界がピンニングの強さ、超電導体の異方性やサイズ、電界レベルなどによって変わる実験結果を説明した。
 まだ助手のころ、研究室の隣のクループが縦磁界効果の研究をしていて、夏のゼミで発表された「14 mTの縦磁界中の半径0.8 mmの超電導円柱の臨界電流が30 A」という簡単な結果から個人的な縦磁界の研究がスタートしたが、これが解決に至る扉を開けてくれた(ヒントは巨大量子化現象)。何がチャンスを与えてくれるかわからない。諸君もそうした鍵を見落とさないで!
所属研究室や恩師について  卒業研究で入った研究室(九大工学部)には故入江先生と山藤先生がおられ、入江-山藤モデルで有名な臨界状態モデルとピンニング損失からピン力をとらえた論文が出されていた。
 この研究室の出身として、大学を定年退職するころから恩師の二つのピンニング理論を統一することを目指した。統計的加算平均と等価な時間平均からピンニング損失を求め、それが臨界状態モデルで仮定する損失の式に一致することを示し、統一は完成した。さらに可逆状態において第一原理から臨界状態を導き、現象論的モデルを理論として意味づけた。これで恩師に恩返しができた。
学会・若手研究者への
メッセージ
 自分が学位を目指していた時、同様にまだ学位未取得の先輩が多く、先の苦労を見越して山藤先生から「臨界状態モデル」以外の研究を勧められた。自分で新しいテーマを見つけなければならず、不可逆な臨界状態とは逆の「磁束線の可逆運動」に集中した。これが功を奏し、その後、いろいろと役立った。若い人も苦労を回避せず、それがきっと将来、自分を育てることを信じてやり切ってほしい。
 それから、縦磁界効果の解明の糸口をくれた一つの結果を紹介したが、同様にいろいろなメッセージがどこかに潜んでいることがある。それを感度よく見つけることが大事で、常にアンテナを立てていてほしい。また、他の研究者との交流も自分の研究域を広げたり、何かの発見をする上で有効です。
 きっかけは掴めても、問題解決のためには有効な武器と使いこなせる腕力を持つことが必要です。