松下 照男 (九工大);山本 明保 , 下山 淳一 , 岸尾 光二 (東大)
matusita*cse.kyutech.ac.jp
Abstract: MgB 2超伝導体は結晶界面による弱結合がないにもかかわらず、その臨界電流密度は低い値に留まっており、同じ結晶界面によるピンニング機構をもつNb 3Snの約1/40程度でしかない。こうした原因の一つが前報で明らかにする低いコネクティビティによるものであり、空隙や酸化絶縁膜がコネクティビティを下げている主因である。コネクティビティを正確に見積もれるようになったことから、ここではコネクティビティと臨界電流密度の関係を議論する。臨界電流密度はコネクティビティに大きく依存するが二つの量は比例関係にない。この原因として結晶界面によるピン力の違いを考慮する。結晶界面によるピンニングは電子散乱による凝縮エネルギー相互作用であり、その強さを左右する因子は不純物パラメーターである。コネクティビティが明らかになったことから超伝導体の残留抵抗率が正しく評価でき、これから電子の平均自由行程が導ける。平均自由行程に依存するGLコヒーレンス長と上部臨界磁界から導かれるGLコヒーレンス長とが一致するようにBCSコヒーレンス長を求めることによって不純物パラメーターを求め、Yetterら[1]の理論結果をもとに異なる試料の結晶界面のピン力を求めた。そうしたピン力の違いを考慮すると、臨界電流密度とコネクティビティの間にはほぼ比例関係があることが明らかになった。このことから、臨界電流密度の向上にはまずコネクティビティを増加させることが第一で、そのためには超伝導組織の充填率を高めるとともに酸化膜の影響を少なくするように原材料の酸素を除去することが必要であると言える。次に、結晶界面のピンニングの強さを増すように、添加物などにより超伝導体の平均自由行程を下げることが大切である。また、ここでは臨界電流密度の値についての議論を通してMgB 2超伝導体の特性改善の将来性についても触れる。
[1] W. E. Yetter et al., Phil. Mag. B 46, 523 (1982)