非線形抵抗器「バリスタ」を組み込んだクエンチ保護回路の安定性評価法

Stability evaluation of quench protection circuits incorporating "varistor"


西 将汰 (神戸大); 鈴木 研人, 中本 建志, 菅野 未知央, 荻津 透 (KEK); 山崎 祐司 (神戸大)


Abstract:欧州原子核研究機構(CERN)では、世界最高重心系エネルギーの陽子・陽子衝突型加速器「Large Hadron Collider (LHC)」を高輝度化する計画「High Luminosity LHC (HL-LHC) upgrade」が進行している。HL-LHC衝突点周りの磁石群の1つであるビーム分離双極超伝導磁石(通称D1磁石)は定格電流12.1 kAにて積分磁場 35 T・mを発生する仕様となっており、高エネルギー加速器研究機構(KEK)はこの磁石の製造と性能評価試験を担っている。D1磁石の磁気エネルギーは2.1 MJにも達するため、クエンチ後の局所的な温度上昇が300 Kを超えないように、KEKにおける試験では保護ヒーターと外部抵抗を組み合わせた保護システムを採用している。D1磁石の励磁試験からは従来の固定抵抗器の代わりに5機の並列回路で構成されたSiC製非線形抵抗器(バリスタ)を導入した。バリスタはIV特性の非線形性から大電流時に電圧を低く抑えることができるので、磁石の耐電圧設計を満たしつつ磁気エネルギーを回収する事が可能である。しかし、並列回路構成であることと、バリスタの温度上昇が流入電流に正のフィードバックを及ぼす可能性があることから、バリスタの性能劣化などの何らかの異常が起きたとき、1つ(または複数)のバリスタに電流が集中し(偏流)、定格容量を超えてしまい破壊にいたることが懸念される。そのため、バリスタシステムの異常の予兆をとらえ、また同時にその原因を特定することが重要である。
本発表では、以下について報告する予定である。まず、これまでのD1磁石試験におけるバリスタシステムの安定性の検証結果と、バリスタシステムの異常動作時の偏流モードを模擬した、クエンチシミュレーションにおけるケーススタディを通してD1磁石及び、保護回路に与える影響の考察について述べる。さらに、これまでのKEK磁石試験で得た正常なデータとシミュレーションによる異常動作するケースを比較し、今後の磁石試験でのクエンチ保護回路における異常発生のオフライン検知法の検討について述べる。