液体水素浸漬冷却BSCCO超電導コイルの過電流通電試験

Overcurrent test of BSCCO superconducting coils with liquid hydrogen immersion cooling


大矢 輝, 白井 康之, 川崎 理香子, 松本 郁哉, 前田 佑一郎, 松本 岳, 塩津 正博 (京大); 今川 信作, 岩本 晃史, 濱口 真司 (NIFS); 津田 理, 長崎 陽 (東北大); 谷貝 剛 (上智大); 小林 弘明 (JAXA); 大屋 正義 (関西学院大)


Abstract: 液体水素の利用先の一つとして、超電導機器の冷媒としての利用が考えられる。液体水素の臨界熱流束は液体ヘリウムと比較して約10倍と高い。また液体水素温度での超電導体の比熱は液体ヘリウム温度での比熱と比べて高く、通電電流が臨界電流を超えて超電導体の一部で常電導転移が発生したとしても、常電導転移部から液体水素への熱流束は、熱暴走点までは液体水素の臨界熱流束以下に保たれる。そのため液体水素浸漬冷却コイルでは、コイル保護のためのクエンチ検出が可能になることが期待される。
 本実験ではBSCCOテープ線材で作成した超電導コイルを液体水素浸漬冷却下に配置し、臨界電流を超えた電流を通電して過電流通電特性と熱暴走限界を測定した。コイルは外径243 mm のダブルパンケーキコイルを6つ組み合わせて構成されている。このコイルは400 A通電時に4.31 Tの最大経験磁場を発生させるように設計されている。各コイルの両端には電圧タップを取り付け、実験中の各コイル両端電圧をリアルタイムで計測する。励磁中の磁場を測定するため、コイル中心付近にはホールセンサーを取り付けている。コイルへの通電にはクエンチ検出機能付きの高精度直流電源を使用した。クエンチ検出機能はコイル両端電圧が50 msの間継続して1.0 V以上となったときに作動する設定とした。
 実験内容について、コイルは30.26 K(クライオスタット内圧力:953 kPa、飽和条件)の液体水素浸漬冷却下に設置した。通電開始後から270 Aまでは1.0 A/sで掃引し、5 sホールドした後に276 Aでクエンチ検出機能が作動するまでは0.2 A/sで掃引を行った。
 過電流通電試験において、276 A通電時にダブルパンケーキコイルの一部での熱暴走の発生を確認した。熱暴走直前のコイル両端電圧は、誘導成分を除いて40.6 mVであった。これは臨界電流時のコイル両端電圧よりも24.5 mV高い値である。
 この実験結果から、液体水素浸漬冷却超電導コイルではコイル保護のためのクエンチ検出が可能になることが期待される。