鉄系超伝導体FeTe0.8S0.2の電気化学反応による特性制御

Tuning the properties of iron based superconductor FeTe0.8S0.2 via an electrochemical reaction


山下 愛智, 出村 郷志, 山木 拓馬, 原 裕, 出口 啓太, S.J. DENHOLME, 岡崎 宏之, 藤岡 正弥, 竹屋 浩幸, 山口 尚秀, 高野 義彦 (NIMS)


Abstract: 近年発見された鉄系超伝導体は、超伝導に不利であると考えられていた磁性の象徴である鉄を含んでいるにもかかわらず優れた特性を示すことから盛んに研究が行われている。鉄系の中でもFeTe0.8S0.2は伝道層のみで構成されたもっとも単純な結晶構造を有するため、鉄系超伝導を理解する上で非常に重要な物質である。ところが、この物質特有の問題として試料の層間に組成比からずれた過剰な鉄が存在し、超伝導を抑制していることが知られている。この過剰鉄は合成段階で取り除くことは困難であるが、これまでに我々は、赤ワインなどの有機酸溶液に試料を漬けて加熱することで、過剰鉄が溶け出し超伝導が発現することを報告している。本研究では従来と異なるアプローチとして、過剰鉄がFe2+として存在していることに着目し、電気化学的に過剰鉄を引き抜くことによる超伝導発現を試みた。
 合成直後の試料は超伝導を示さなかったが、電気化学反応を施した試料では超伝導転移に伴う大きな負の磁化率が観測された。また、印加電圧により磁化率に差異が現れ1.5Vでもっとも大きなシグナルを確認した。
 反応後の溶液中に含まれる各元素量を測定した結果、試料から鉄が溶け出していることが明らかとなった。これらの結果は、電気化学反応が過剰鉄を引き抜くことに有効であることを示唆しており、新手法によるFeTe0.8S0.2の超伝導化に成功した。