Evaluation of critical currents of YBCO and Bi-2223 tape wires based on a new transition concept
石栗 慎一, 池上 大輔 (福井高専)
Abstract:臨界電流の解析は、これまでは磁束量子の印可磁場におけるローレンツ力による運動によって、電磁誘導に基づいた転移概念で専ら議論されてきた。しかし、この転移の仮説には以下に示す問題点がある。
1)転移後の線材内部の磁界分布は均一かつ一様にならなければならない。しかし、この仮説に基づいては、たくさんの磁束量子が線材端部に集まってしまう。
2)電圧発生が時間に依存するため、磁束量子がローレンツ力に基づいて端部に集まった後は電圧が出ない。
3)臨界電流の式が理論的に導出できた例がほとんどない。つまり、これまでの研究の臨界電流の評価式中のパラメータはフィッティングに基づく数値解析によるので、パラメータ自体が物理的な意味とそれに対応する単位をもたない。
そこで本研究では、新しい転移概念を導出し、これに基づいて量子力学的アプローチから理論的に臨界電流の評価式を導出することに成功した。
新しい転移概念は、磁束量子の値がh/2eで一定であることから、印加磁界を強くしていくにつれて
磁束量子の半径、つまり磁束量子の周りを還流するシールド電流の半径が小さくなっていくことに注目する。さらに印加磁界を大きくするとシールド電流の半径とピンの空間的半径が一致するときがくる。この瞬間を転移の瞬間とする。これ以上印加磁界を大きくしても、シールド電流の半径は小さくなれないので消滅し、同時に磁束量子がその形状を崩すので磁界が均一になる。
上記の転移概念に基づいて物理的洞察から転移の波動関数を導出し、高温超伝導線材の2次元電流シートに対して平行磁界成分と垂直磁界成分についての波動関数を結合することで最終的な臨界電流の評価式を導出した。
理論の妥当性を確かめるため、Y系線材とBi系線材の両方の高温超伝導線材の臨界電流のいろいろな磁界と磁界角度について比較を行った。その結果、非常によい精度で理論式と一致し、かつ式中の長さの次元をもつピンポテンシャルの半径と2次元電流シートの厚さは妥当値を示すことがわかり、本研究の転移概念が正しいことを確かめることができた。