磁気力を利用した重力制御環境でのタンパク質結晶成長 − 対流のシミュレーション −

Protein crystal growth in gravity controlled by magnetic force   - Simulation of the convection -


岡田 秀彦, 廣田 憲之, 松本 真治, 和田 仁 (NIMS)


Abstract:1. はじめに
新薬などの開発において、従来の経験的な方法に代わり、タンパク質の立体構造を知ることによって有用な薬剤分子を設計・作製する方法が注目されている。X線回折によりタンパク質の立体構造を精密に解析・決定するには、良質な結晶が必要である。しかし、タンパク質結晶の質(結晶性)は多くの因子によって左右され、現状では良質の結晶を効率よく得ることは非常に難しい。近年、結晶化過程における対流や容器壁への接触等を抑制できる微小重力環境が注目され、例えば、スペースシャトルを使ったタンパク質結晶化実験が行われてきた。しかし、宇宙空間での実験は、装置や実験条件、費用、時間等が非常に制約される。一方、タンパク質の反磁性と磁気力を利用して擬似的な微小重力環境を発生すれば、結晶化において同様な効果が期待できる。実際、これまでに種々の有機高分子の磁気力下での結晶化実験が報告されている。

2. 目的と方法
微小重力と磁気力は共に体積力であるため浮力、対流等への影響は似ているが、磁場には重力場と異なる特徴がある。本研究では、磁気力を利用した重力制御環境をタンパク質結晶成長環境として評価するために、計算機シミュレーションによる空間磁場及びその流体運動への影響についての解析に取り組んでいる。
シミュレーションでは、タンパク質結晶成長に使われる結晶化プレートを想定した結晶化空間内での流体挙動を解析した。本報告では、これらのシミュレーションの計算モデル及び結果の詳細について報告する。

本研究は科学技術振興機構「先端計測分析技術・機器開発事業機器開発プログラム 高効率・高品位タンパク質結晶生成システムの開発」の支援を受けて実施している。