TFA-MOD成膜プロセスへの迅速なフィードバックに向けた臨界電流特性の複数試料マトリックス磁気顕微法による評価

Multi-sample matrix measurement of critical currents by magnetic microscopy for rapid feedback to the fabrication processes of TFA-MOD film


塩原 敬, 東川 甲平, 川口 鉄平, 井上 昌睦, 木須 隆暢, 桝田 靖人, 寺西 亮 (九大); 吉積 正晃, 和泉 輝郎 (SRL)


Abstract:TFA-MOD法YBCO線材は非真空且つ、材料収率の良い線材プロセスであるため、低コスト・高特性線材を生産できる線材プロセスとして期待されている。しかし、実用線材実現のためには、塗布、仮焼、本焼の各プロセスにおいて種々の作製パラメータの最適化し、高均一かつ高臨界電流(Ic)を有する安定した成膜技術の確立が必要である。実用上重要となるIcの評価には、一般には四端子法による通電試験、あるいはSQUIDによる磁化率測定の手法が広く用いられている。四端子法の場合は、端子の取り付けが必要であり、高Ic試料においては、通電電流の制限から、ブリッジの形成などが必要となる。また、SQUID磁化率測定においては、試料サイズは通常数ミリ角程度と限られる。さらに、両者の測定において、得られるIc値は、試料サイズに亘るマクロな平均値であることから、微少欠陥や試料不均一性に起因する空間分布については情報を得ることが困難である。以上より、従来の評価手法では、測定に時間を要したり、試料の本質的な振る舞いを見落とすといった問題点が考えられる。

本研究では、作製プロセスへの迅速なフィードバックを可能とする効果的な臨界電流の評価法として、磁気顕微法を基に、1) 複数試料のIcならびにその局所分布を定量的にかつ2) 迅速に評価可能な方法を報告する。本手法はまた、3) Icの磁場依存性の評価が可能であるだけでなく、組成分析、結晶構造解析など材料学的評価との複合を可能とするため、 4) 非破壊、5) 非接触という特徴を有する。

作製条件を系統的に変化させた試料を試料ステージ状にマトリクス状に配置し、外部磁界の侵入およびトラップ磁束の高空間分解能像をマイクロホール素子によって測定し、ビオ・サバール則の逆変換によって、試料内電流を評価した。本研究では、一例として、成膜時の湿度がIcの値ならびにその空間分布に及ぼす影響について調べた結果について紹介する。

本研究は,イットリウム系超電導電力機器技術開発の一環としてISTECを通じてNEDOからの委託を受けて実施するとともに,日本学術振興会の科研費(20360143)の助成
を得て行ったものである。