■ HTS


Y系線材 (1) (1P-p12/p14)

1P-p12 YBCO 系線材特性の劣化を判断する指標として,パルス的に過電流を線材に通電することにより上昇する線材の到達温度を用いる試みについて報告された。

1P-p13 YGdBCO 系線材に導入された BZO ナノ粒子による,臨界電流密度の磁界依存性への効果について,低磁界においては臨界電流密度の改善に有効であるが,高磁界においては効果は小さいと報告された。

1P-p14 YBCO 線材の臨界電流特性と見かけのポテンシャルの超伝導膜厚依存性について議論され,臨界電流密度は膜厚が薄い試料ほど大きいと報告された。

Y系線材(2) (2A-a06/a10)

本セッションでは,5件の Y 系線材に関する発表のうち,特性評価1件,プロセス3件,線材加工プロセス1件について報告された.

山崎(産総研)らは,市販されている2種類の Y 系テープ線材について,誘導法と輸送法の両方で Jc の磁場角度依存性を測定し,0.5 T 以上の高磁場では両者が良く一致するが,0.1 T 近傍以下では違いが現れることから,粒界の影響が大きい場合には,誘導法で測定したJc が小さめになることを指摘した.

柿本(超電導工研)らは,厚膜化に有効とされるホットウオール型 PLD 装置による高速成膜について報告した.特に,基板―ターゲット間距離を 75 mm から 95 mm まで遠ざけることで,膜の平均組成が Ba-poor から化学量論組成に近づくために,析出物が減少することで,Jc の改善が見られ,同じ厚膜でも高い Ic 値が実現できることを示した.一般的には Ba-poor の方が高い Jc が得られるとされており,この結果との関連について議論の余地あるとの指摘があった.

筑本(超電導工研)らは,In-Plume-PLD 法による高速成膜について,短尺から RTR による長尺化に適用した結果について報告した.特に In-Plume 法では,Plume の形状が重要なため,酸素分圧・レーザーサテライトの除去などにより Plume を制御することで,Jc の局所的な低下のない均一な線材が作製できると報告した.

町(超電導工研)らは,レーザーとエッチングを組み合わせた手法で,テープの細線化を行っているが,その際のマスクとしてポリエステルを用いた結果について報告した.結果 200μm 幅のロスがあるが,Jc の劣化は約 2 %以下で 3 分割が,長尺で可能であることを報告した.一野(名大)らは,コストの安い Nd:YAG レーザーを用いた PLD 法による YBCO 膜の製作を行い,面内に 45°回転した配向粒が基板距離が 35 mm 近傍と 45 mm 近傍で見られなくなり,高い特性が得られるとした.また YAG レーザーを用いた場合には,エキシマーレーザーと比べて,成膜速度が向上すると共に,粒径が小さくなることを指摘した.これらのメカニズムについて議論が行われたが,今後明らかにすることで,成膜プロセスが発展すると思われる.

Y系線材 (3) (2P-p13/p18)

2P-p13 熊本大の末吉らは,BaZrO3, YSZ を用いた YBCO 擬似多層膜の磁束ピニング特性について報告した。多層膜の作製方法は,ターゲットの切り替え法を用いたエキシマレーザ PLD 法であった。Tc の低下率は BZO の方が大きかった。特徴的であったのは,Jc(B,θ) 特性がいづれの角度でも Jc が向上したことである。これは,導入されたピン止めセンターがロッド状ではなくポイントピンとなっていることを示唆していると結論された。

2P-p14 名古屋大の鈴木らは,IBAD-MgO バッファ上に YBCO 膜を成膜した場合のピン止め特性について報告した。興味深いのは,ピン止めセンターを導入したわけではないのに,c 軸方向の Jc が増大したことで通常は考えられない現象である。これがバッファ層からの影響であると考えて,Yb123 をシード層として成膜した後に YBCO を成膜すると,c 軸相関ピンの効果が薄れ,Yb123 のみにすると完全に消失した。AFM 観察では,バッファ層だけでは粗かった表面が,Yb123 により緩和されるように思えた。これは CeO2 層を追加した場合にも同じような状態となった。

2P-p15 名古屋大の高木らは,MgO ドット上に YBCO 膜を成膜した場合の 77 K と 65 K のピンニング特性に大きな違いがあることを報告した。MgO ドット上に YBCO を成膜した場合には,77 K で c 軸相関が薄れてθ=0 の Jc が低下するが,この試料を 65 K に冷却して Jc(B,θ) 特性を測定すると,逆に c 軸相関ピンが増大する傾向を示した。この温度変化は非常に興味深いが,まだ納得できる説明は出来ていないようであった。

2P-p16 名古屋大の吉田らは,2P-p14 と同様に通常の線材に用いられる IBAD-MgO バッファ (GZO/MgO/LMO/CeO2) 上に YBCO 膜を成膜した場合のピン止め特性について調べていたが,バッファ層の影響とすると当然の帰結として考えうる YBCO の膜厚依存性の結果を報告した。Jc(θ)/Jc (//ab) でノーマライズしてプロットすると,YBCO の膜厚の増加とともに c 軸方向の Jc が増大した。バッファ層の影響と仮定すれば,逆の現象が予想されるだけに,非常に興味深い結果であった。

2P-p17 フジクラの須藤らは,中間層の高速性膜について検討した結果を報告した。特筆すべきは,MgO 成膜速度で,5-10 nm 厚で1000 m/h もの速度に到達していた。他の層についても,Al2O3 100 m/h (100-200nm), Y2O3 500m/h (20nm), PLD-CeO2 60m/h (500 nm) の速度で最終的な CeO2 層のΔφが 4 − 5°を達成していた。ちなみに金属基板のハステロイは Ra ~ 2-3 nm 以下に研磨してあることが必要であるとのことであった。

2P-p18 高知工大の Silva らは,4倍高調波で UV 領域の波長 (266 nm) とした Nd:YAG レーザを用いて,STO 基板上に (Y1-xHox)Ba2Cu3Oz を全ての x 領域で成膜することに成功したことを報告した。どの Ho 量においても,格子定数が変化せず,Tcもほぼ一定で,Jcも変わらなかった。ただし x=0.5 の Jc は著しく低下していたが,これは実験上のエラーであろうと考えていた。特性が置換量によって変化しない理由は,Y と Ho のイオン半径が近いことにすべて帰結できると考えていた。

Y系線材(4) (3A-a06/a10)

本セッションでは,Y 系線材の実用化に向けた研究開発に関する報告が5件行われた。

超電導工研の吉積ら(3A-a06)は,Zr を添加した TFA-MOD 法で作製された (Y,Gd)BCO 線材においてピン止め点として作用していると考えられる BZO の形成プロセスを明らかとするとともに,本焼時の成長速度を上げることによる厚膜化と高Ic化の達成について報告した。1.9 um 厚の線材において,760 A/cm-w@77 K,自己磁場が得られており,また,磁場中においても角度に対する最少の Ic として115 A/cm-w@1 T,35 A/cm-w@3 T が得られている。

昭和電線の中西(3A-a07),小泉(3A-a08)らは TFA-MOD 線材の長尺化に関する報告を行った。CeO2 キャップ層は,IBAD-GZO および IBAD-MgO のいずれの中間層上においても社内目標としている 6 度以下のΔφが得られている。また,線材の作製速度を律則している仮焼の速度を 5 m/h から 10 m/h に向上させた成果,及び仮焼装置の安定動作に伴う線材の歩留りの向上についても示された。

住友電工の太田ら(3A-a09)は,低磁性クラッド金属基板を用いた GdBCO 長尺線材の開発状況について報告を行った。製造速度を向上させるために,30 mm 幅の基板を用いるシステムを開発しており,中間層に関しては幅方向の均一性が得られていることが示された。一方,超伝導層に関しては幅方向の両端において Ic が得られない状況であり,今後のプロセス改善の方向性が示された。

鹿児島大学の土井ら(3A-a10)は,配向 Cu テープを用いた YBCO 線材に関する報告を行った。YSZ 中間層が Ni 鍍金 Cu テープからの有害元素の拡散をブロックしていることを示すとともに,拡散バリアとして必要な膜厚について報告した。バリアとして必要な膜厚は超伝導層の成膜条件にも強く依存すると考えられることから,更なる詳細な検討が期待される。

Y系線材基礎特性 (2A-a01/a05)

本セッションでは,RE123 超伝導体の金属元素不定比性,RE123 線材における強磁場下の電気特性そして機械特性に関する全 5 件の報告がされた。

下山(東大)らは,Y123 や重希土類 RE123 など従来は RE/Ba 置換が生じないとされていた系でも置換が生じている可能性を示した。斜方晶性と Tc には正の相関があるが,RE/Ba 置換に起因する斜方晶性の低下に伴った Tc の低下は Nd 系よりも激しいことなど報告した。

淡路(東北大)らは,MOD 法 Y123 線材において,印加磁場方向が ab 面方向近傍の場合,n 値と Jc に負の相関があることを見いだし,2 キンクモデルを用いたピンニングポテンシャルの変化で説明できる可能性を報告した。

石原(東北大)らは,MOCVD 法で作製した Y123 線材の強磁場下 Jc を様々な温度で測定し,Jc の異方性について系統的に評価した。

長村(応科研)らは,引っ張り応力印可時のY123線材において,結晶構造変化を中性子回折によってその場観察し,歪に対する格子面間隔やIcの変化などについて報告した。

新海(住友電工)らはクラッド金属テープ上に作製した Gd123 線材に関して曲げ歪に対する Ic の変化などについて報告した。

IBAD-MgO (3A-a01/a05)

本セッションでは,IBAD 法によるY系線材の開発に関して5件の発表があり,活発な議論がなされた。特にフジクラからなされた2件の発表は,Y 系線材の実用化に向けて大きく前進したことを伺わせた。

高橋ら(ISTEC-SRL,昭和電線 CS)は,ハステロイテープ上に MOD 法で Ce2Zr2O7 を形成することで,表面粗さ Ra を改善することに成功したと報告した。Ra=6.5 nm のハステロイテープの場合,10 回の塗布と焼成を繰り返すことで Ra〜2 nm まで平滑化できることを示し,その上に GdBCO/CeO2/LMO/IBAD−MgO を形成して Jc〜5 MA/cm2 を達成し,この手法の有効性を実証した。

宮田ら(ISTEC-SRL,ファインセラミックスセンター)は,基材テープの表面粗さの影響を排除した IBAD-MgO 層の表面粗さを見積る方法として,フラクタルの一種である自己アファイン性(異方的自己相似性)を基礎にしたスケーリング手法を提案した。IMAD-MgO 層は数nm厚で2軸配向度が最も高くなり,その後膜厚の増加とともに急激に配向度が低下することから,表面ラフニングが配向度を低下させている可能性が指摘されている。しかしこれまでは MgO 層が薄い領域では基材テープの表面粗さに隠れて,MgO 層そのものの表面粗さ(の成膜時間依存性)を見積ることができなかった。今後,MgO 層の配向メカニズムの解明が期待される。

畠山ら(ISTEC-SRL)は,ハステロイテープ上に GZO\IBAD-MgO\LMO\CeO2 中間層の高速成膜について検討を行い,RF スパッタリング法で LMO を 50 m/h の速度で 100 m 製造することに成功した。最上層の CeO2 のBφ=3.7〜5.3°,Ic=322〜404 A と良好であることを報告した。また,LMO を省いた GZO\IBAD-MgO\CeO2 の3層構造でも4層構造と同程度の高配向度が得られることを示した。

羽生ら(フジクラ)は,大型アシストイオンビームを用いた長尺 IBAD-MgO の高速成膜について報告した。Al2O3 と Y2O3 を形成した1 km 長のハステロイテープに,1 km/h の線速で IBAD 法により MgO 層を形成し,全長に渡ってBφ〜4.2°と良好な配向度が安定して得られたことを報告した。1 km の IBAD-MgO 層が 1 km/h もの高速で製造できるようになったこと事の意義は極めて大きく,本結果はY 系超電導線材の実用化が近いことを期待させる。

五十嵐ら(フジクラ)は,Al2O3\Y2O3\IBAD-MgO\CeO2 中間層上に GdBCO 層の作製を行った結果について報告した。1 パスの線速は 80 m/h として複数パス(実効線速 13.3 m/h)の成膜を実施して 2.5μm 厚の GdBCO 層の作製し,115 m の全長で Ic>400 A,70 cm 間の最高値 670 A,2 cm 間の最高値 670 A を達成した。今後,製造パラメータの最適化が進むことで高特性の長尺線材が得られることが期待される。

輸送電流 (2) (1P-p15/p18)

九工大の水間らは DyBCO 線材に Au および Ni イオンをテープ面に垂直に照射し Jc 特性を評価した。磁場下では柱状照射欠陥がピンニング中心として作用するので Jc が増加する。一方,体積膨張した照射欠陥は周りの未照射部を圧縮させるため,自己磁場下では Tc の低下を通して Jc を劣化させると考察した。

東大の宮副らは Y 系テープ線材の強磁場応用を念頭に Y 系テープ線材のc軸方向の磁界補足効果と遮蔽効果を検討した。

弘前大の村上らは 100 % 酸素雰囲気下で熱処理することにより内部に気孔を含まない Dy 系酸化物について破断面を観察し,そのような緻密材では Dy211 粒子を微細に分散させるために添加した Pt が破壊の起点になっていることを明らかにした。

早大の青木らは SMES における周期的な電磁応力想定して YBCO 線材の疲労特性を評価するため従来のU字型治具に替えてより均一なひずみが付加できる円形治具を設計・製作した。

Bi 系線材 (1P-p09/p11)

Bi系線材としてのポスター発表は 3 件。以下,概要を紹介する

1P-p09 豊橋技科大,稲田らは,Ag-Au 合金シースの Bi-2223 とバリア型の交流損失を比較。バリア線については,前回の学会に引き続いた報告。SrZrO3 のバリア材は,ブリッジングを抑制できておらず,理論による予測より AC ロスの低下が小さい。今回,AgAu 合金シースで検証試験を行ったが,こちらはほぼ理論の予測どおりの結果となった。この結果から,バリア線は,ブリッジングに課題があることが改めて検証された。

1P-p10 九工大,上野らは,Bi-2223 多芯テープ材における Jc とフィラメント数の関係を調査。55芯,121芯,211芯を比較。サンプル数が少なく,結論とは認定しがたいが,プロセスパラメータとしては,121芯が最も異方性が強い傾向が認められ,配向しているとした。

1P-p11 豊橋技科大,中村らは,Bi-2223 プロセスにおけるポストアニール条件を検討。ポストアニールによって Bi-2223 相の割合が変化する状況を定量的に明らかにした。高 Jc を得るには,840℃の焼結熱処理後に,815℃のポストアニールを行う組み合わせが効果的と結論。この種のプロセス因子を詳細,かつ,定量的に示した報告は少なく,貴重なデータといえる。

ピンニング(線材) (1A-p01/p05)

13日午後の「ピンニング(線材)」のセッションでは,5件の発表があった。

東北大の難波らは,PLD-Er123 膜に金イオンを照射した試料の Jc の磁界角度依存性を測定し,60 K, 9 T において,照射によって生成した柱状欠陥の方向に磁界を印加した時に非常に大きなピークを観測している。

名大工学部の吉田らは,BaZrO3 を添加した SmBCO 膜では c 軸に平行なナノロッドが形成されるのに対して,蛍石構造を有する Sm2Zr2O7 を添加した SmBCO 膜では粒状の析出物が観測されることを報告した。そして,それに対応して Jc の磁界角度依存性が明確に変化することを示しており,興味深い結果である。

関連して,名大工学部の尾崎らは,BaZrO3 を添加した SmBCO 膜において,成膜温度の違いによってナノロッドの形態や密度が異なることを観測し,それが臨界電流密度特性に及ぼす影響を詳細に調べている。

その他,RE-123 単結晶における点欠陥のピン止め特性を理論的に解析した報告(東大院工)と,PLD-RE123 膜に重イオンを照射した試料の臨界電流特性に関する報告(超電導工研)があった。

ピンニング(バルク)(1A-p06/p09)

MgB2 薄膜のピン止め特性1件,GdBCO バルク材の着磁特性について3件の報告があった。

最初に鹿児島大の土井氏より,Ni(又は B)の挿入間隔を変えたMgB2/Ni(又は B)多層膜において,磁場を層に平行に印加した時に現れる Fp のピークについて,マッチング効果によるものであると報告した。このマッチング効果について,何故2倍あるいは 1/2 倍マッチングが観測されないのかについて,質疑があった。

次に岩手大の三浦氏より GdBCO バルク材をパルス着磁した際の捕捉磁場特性について,静磁場着磁(ゼロ磁場冷却)を比較し,パルス着磁の方が捕捉磁場分布において試料の不均一性が現れやすいことを示した。

3番目は同じく岩手大の藤代氏から,複数パルス磁場印加法 (MMPSC) による 65 mmΦの大型 GdBCO バルクの着磁法開発について報告があった。

最後は新潟大の山崎氏より,IMRA 法によるバルク磁石の着磁における最大パルスの大きさと捕捉磁場の関係についての報告があった。着磁に用いたパルスの大きさがコンデンサ容量によって表記されていたため,発生磁場で示してほしいという指摘があった。

酸化物結晶成長 (2C-a06/a08)

3 件の発表があった。鉄道総研の藤本らは Gd123 バルク材について緻 密な構造を持つ材料の作製をしてきており,弾性率やポアソン比な どを測定し,緻密材の方が特性が改善されていることを報告した。 東京大学の赤坂らは Y123 バルク材を成長させるときに,種結晶をこ れまでの方向と 90 度違う方向に置くことにより,a, c 軸成長方向を入 れ替えた。そしてバルク材の詳しい特性の変化について報告し,議 論をおこなった。今後高さ方向に大きな試料ができると優位性を示せるようになると思われる。山形大学の磯部らはジョセフソン接合 に利用する Bi-2212 膜の臨界電流密度を制御するために Y ドープをお こない,臨界温度を下げずに臨界電流密度のみ減少させることがで きることを報告した。

デバイス (2C-a09/a10)

デバイスセッションでは,NbN薄膜を用いた超電導マイクロ波フィルタの高耐電力化に関する講演が1件,回転型低温6元対向スパッタ装置を用いたNb/AlOx-Al/Nb接合の高性能化に関する講演が1件,計2件の講演があった。
前者は,ストリップライン共振器の辺縁部分をよりより細かく分割することで均等分割に比べて電流集中をより効果的に緩和できることをシミュレーションにより明らかにした。
また,後者は,X線やテラヘルツ波の宇宙観測用途向けNb/AlOx-Al/Nb超電導トンネル接合の作製に関して,新たに開発した対向ターゲット低温スパッタ装置を用いて薄膜へのスパッタガスの取り込みを低減する ことでにギャップ電圧以下のリーク電流を極限まで抑えた高性能検出特性を実現した。

デバイスセッションの講演件数は相変わらず少数で推移しているが,今回は高周波フィルターに加えて最先端の接合デバイスの発表もあり活発な質疑応答が展開された。本学会での超電導エレクトロニクスデバイスに関連した発表件数の増加を期待したい。

交流応用 (1) (1A-a01/a05)

本セッションはテープ導体の交流応用のための基礎的検討に関するものであり,テープ内での電流分布の計測に関する報告が3件,テープ状導体の交流損失に関する報告が2件なされた。

電流分布計測に関する3件のうち,2件は九州大学グループの走査型ホール素子磁気顕微鏡によるものであり,1件は鹿児島大学のピックアップコイルによる分布計測であった。これらはテープ表面の磁界分布計測結果から逆問題を解きテープ内部の電流分布を得るものである。ホール素子磁気顕微鏡による手法では十分な空間分解能力が示され,また,理論計算ともよく一致した。また,電流の分流の時間変化がアニメーションで示され非常に興味深いものであった。

交流損失については,産総研から電力ケーブルを想定し湾曲したテープ導体が円筒状に配置された場合の交流損失理論計算が,また,鹿児島大学のグループからは 4 層の YBCO テープ導体の模擬サンプルの結合損失評価について報告された。実機を想定した条件下での交流損失の理論的理解により,今後テープ状線材の交流応用における導体構成の最適化が期待される。

交流応用 (2) (1P-p19/p23)

当セッションの5件全てが coated conductor の交流損失に関する発表であり,積層または並列化した導体に関して3件,機器応用に関して2件であった。

積層導体に関しては,山崎(九大)等から交流損失の各温度における臨海電流での規格化が報告され,中山(九工大)等から6枚,12枚積層した場合の測定結果が報告された。

並列導体に関しては,林田(九大)等から導体の巻き乱れに関して報告された。

機器応用に関しては,柁川(九大)等から SMES の運転パターンを考慮し,直流/交流磁界と直流/交流電流が全て適用された電磁環境下における理論式が報告され,鈴木(新潟大学)等から送電ケーブルを考慮した多層集合導体における,線材幅・線材間ギャップに関する検討が報告された。

HTS 応用 (1B-a06/a10)

本セッションでは,全部で5件の報告があった。その内訳は,HTS コイルに関するもの 3 件,Y 系バルク磁石に関するもの 1 件,Y 系テープ線材を用いた電流リードに関するもの1件であり,聴講者は約 60 名であった。その中で特に印象に残った報告は,下記の 3 件である。

HTS コイルに関しては,2 本の Y 系テープ線材を束ねた並列導体を用いたパンケーキコイルにおいて,線材そのものに転位を施すのではなく,コイル内側の電極で外側と内側の線材位置を入れ替えるという新しい方法で偏流を防止するという結果が示され注目された (1B-a09)。

また,冷凍機冷却型の HTS パンケーキコイルの冷却効率を高めるために,シート状に加工した自励式のヒートパイプを冷却素子として組み込む方法が報告された。実験前に行われた解析では,その冷却方法の有効性を裏付ける結果が得られており,実験結果の報告が待たれる(1B-a10)。

5 本のY系テープ線材を GFRP 板で補強した電流リードでは,77.3 K,自己磁場中において 800 A まで電圧を発生せずに通電ができ,且つ SUS 補強材を用いた場合に比べて熱侵入量が半分以下となっており,実用可能性が示された(1B-a08)。

新規材料 (2P-p19/p21)

このセッションでは 3 件の報告が行われた。

九工大の吉田らは,本学会唯一の鉄系高温超伝導体に関する発表を行い,PIT法で作製した SmFeAs(O,F) バルク体の臨界電流特性を評価した結果を報告した。粒間Jcは磁化法で評価しても 1 kA/cm2 台と依然として低く,粒間結合の改善には技術的なブレークスルーが不可欠であるという印象を受けた。

鉄道総研の藤本らは,Pt-Rh 棒を複合したDy123溶融凝固バルクの作製とその特性について報告し,Pt 棒の場合よりも溶融凝固反応中に侵されにくく,また熱伝導度が向上したことからパルス着磁時の発熱抑制に有効な方法であると結論した。

同じく鉄道総研の富田らはリング状溶融凝固バルクの捕捉磁場特性を報告し,径方向の磁束密度分布が緩やかになること,積層することにより,中空ボアを持つコイル同様の 磁石応用が,電源無しで可能になることが示された。

■ 金属系線材


A15型線材 (2D-a02/a04)


A15 型線材のセッションでは次の 3 件の発表があった。

まず茨城大の小黒氏から,Nb3Sn 線材の歪効果に対する 3 次元歪を用いたモデルについて発表があった。Markiewicz の提案したInvariant strain function を元にモデル化し,線材構成が異なっても基本となるフィッティングパラメータをすべて同一の値にして,歪特性を表現できることを示した。興味深かった点は,歪効果を支配するものが,軸方向残留歪,横方向残留歪,歪縦横比の三つであるという点であった。Nb3Sn だけでなく他の材料にも幅を広げ,包括的なモデルの検討を行うと,より深い現象解明に迫るのじゃないだろうか。

東北大の西島氏からは Nb3Sn 線材の機械特性に与えるアルミナ分散銅複合の効果について発表があった。機械的特性の高いアルミナ分散銅を利用して,予歪を調整し,線材が実際に使用される歪状態でIcを最適化することを狙いとした研究である。加工性に若干問題があるようだが,効果は十分認められる結果であった。

最後に東海大の山口氏から,Sn 基合金を用いた Nb3Sn 線材の作製について発表があった。従来の Sn-Ta 系合金のほかに今回新たに Sn-B 系合金を利用した試作の報告があった。まだ始めたばかりで特性の評価まではいたっていないが,Sn-Ta 系と類似した組織を持ち,少量のTi添加で凝集性が高まるとのことである。今後に期待したい。

A15/金属系線材 (1) (2D-a05/a08)

2D-a05:Nb3Sn 線材のための実用ブロンズ合金の組織と冷間加工性
内容:実用ブロンズ合金の約 16 % までの高スズ濃度鋳塊「水田方式」を適用し,溶体化処理すると逆偏析が少ないα固溶体と CuSnTi 化合物の組織が得られ,84.4 % の優れた冷間加工性も確認できた。
議論:実用実績は有るか。熱間複合加工性のデータは有るか。

2D-a06:拡散法 Cu 安定化 V-Ti 合金多芯線
内容:Nb-Ti 線よりも低放射化超電導材料の探索の一環として,拡散法により V-Ti 複合線の加工熱処理法による Jc-B 特性向上を試みた。
議論:Nb-Ti と V-Ti では状態図が異なっておりα-Ti に析出機構に違いがあるのではないか。

2D-a07:単芯 JR 法 Nb3Al 線材の RHQ 処理条件と超電導特性
内容:Al 厚の厚い RIT 法線材の RHQ 処理時の通電電極間隔を 300 mm にすると高特性が得られることにヒントを得て,Al 厚の厚い JR 法線材の RHQ 処理に適用し特性向上を確認した。
議論:Tc 特性の向上は確認できたが,Tc-Jc 相関の説明がほしい。

2D-a08:13T Nb3Al/Nb3Sn マグネット用 Nb3Al 素線及びケーブルの研究開発
内容:CERN-KEK-Fermilab 共同研究の一環として,LHC 高磁界化用線材候補に Ta バリヤ Nb3Al 線を選定し,Nb3Sn 線ケーブル-Nb3Al 線ケーブルの複合ダブルパンケーキコイルの評価研究を実施中である。
議論:なぜ,Nb3Al 線単独のコイル評価を行わないのか。

MgB2 (1) (2P-p09/p12)

九大の波多等は in-situ 法 MgB2 線材の組織観察の報告があった。これまでは TEM によるナノスケールの観察が中心の報告であったが,今回,SEM による比較的広域の組織観察で明瞭な変化があることを指摘した。

熊本大の米倉等からは MgB2 薄膜の粒径を Ti バッファによりコントロールして特性の変化を研究した報告があった。実際に MgB2 の結晶粒径等が変化しているかを示す組織的なデータの採取が待ち望まれる。

筑波大の山本等からは MgB2 バルクに Xe イオンを照射した際の磁化特性について報告があった。残念ながら Xe イオンの照射はバルク最表面の 20 ミクロン程度しか影響を受けていないため,欠陥導入の効果が明瞭にでてこなかった。しかし,サンプル作製を工夫することで,今後に角度依存性等の興味深い知見が得られるものと思われる。

日大の渡辺等は,Fe シースの in-situ 法 MgB2 線材の特性を,真空中及び動的 Ar ガス雰囲気中で熱処理した場合を比較した。Jc の磁場依存性に違いがみられているが,その原因及び理由を明らかにできれば,工業的に価値ある知見となるだろう。

MgB2 (2) (3B-a01/a04)

許(東大)らは,内部拡散法によって作製した MgB2 線材の輸送特性につて報告した.得られた線材は,高い臨界電流密度特性を示した.また,臨界電流密度に対する熱処理温度や処理時間について議論した.

山田(JR東海)らは, in situ PIT 法により作製した MgB2 線材について,ホットプレス加工を行い,臨界電流密度特性が向上することを報告した.これらは,線材コアの密度向上によることを指摘した.

望月(東大)らは,磁気配向法によって作製した MgB2 バルクの微細組織観察結果と輸送特性について報告した.10 T の磁気配向により c 軸配向しており,輸送特性に異方性が観測された.

Kim(NIMS)らは,MgB2 線材の輸送特性について報告した.MgB2 線材の臨界電流密度の磁場依存性が,パーこれ−ションモデルで記述出来ることを示した.

MgB2 (3) (3B-a05/a07)

本セッションでは3件の講演があった。いずれも交流応用を視野に入れた基礎研究の発表であった。

現在,九大,京大,日立のグループにおいて液体水素下で動作するモーター開発を進めており,MgB2 線材の特性評価の研究が行われている。その中で九大の川野氏からは MgB2 丸線材の交流損失に関する発表が行われた。実験値は臨界電流密度一定とした Bean モデルの理論値とよく一致しているが,高温部では外部シースによる渦電流損失によって通電損失が増加することを報告した。

一方,他の2つの講演は高アスペクト比を持つ MgB2 テープ線材の臨界電流密度特性と交流損失特性の報告であった。高い Jc と低交流損失を両立させるため研究である。アスペクト比を高くすることによって Jc 向上が達成できるが,それとともに異方性も大きくなる。磁化の履歴幅を臨界電流密度で割った等価フィラメント径を定義し,アスペクト比との関係の議論を行った。ヒステリシス損失を表す等価フィラメント径はアスペクト比増大とともに低減されることを示した。

構造材料

構造材料 (1D-p06/p09)

構造材料のセッションでは4件の発表がなされた。

初めの講演は準安定オーステナイト鋼の極低温での疲労き裂進展に及ぼす磁場の影響を調べたもので,6 T 中では伝播速度が速くなる傾向にあることが示された。これはマルテンサイトの生成に起因するものと考えられている。

二番目の発表はαチタン合金の高サイクル疲労における疲労破壊起点部方位の温度依存性を検討したもので,双晶の発生が疲労破壊起点の生成と関係していることを明らかにした。双晶の発生を抑制することが疲労強度の向上につながることが示唆された。

三件目の発表は Ti-6Al-4V ELI 合金鍛造材の 20 K He ガス中での破壊靭性と疲労強度に関する発表で,Ti-5Al-2.5Sn EL I合金と同程度の破壊靭性,疲労強度特性を示すことを明らかにした。液体水素中での同様の実験が予定されている。

四件目の発表は準安定オーステナイト鋼の高圧水素による脆化に関する研究で,特に,200 K 付近で絞りが低下する現象を解析的に解明しようとしたものである。材料内部のマルテンサイト相の量と水素拡散に果たす役割が議論された。

■ 超伝導応用


NMR (1B-a01/a05)

本セッションでは,NMR や加速器マグネットへの高温超伝導体応用に関する発表が 4 件,NMR 用検出コイルの最適化に関する発表が 1 件あった。

高温超伝導体応用についての最初の発表は,小型 NMR 用マグネット開発に関するもので,YBCO 薄膜を積層してマグネットにするという新規性の高い研究であった。

高温超伝導体応用についての続く 3 件の発表は,テープ線材の磁化(遮蔽電流)に起因する残留磁界,磁界の時間変化に関するものであった。NMR や加速器マグネットでは磁界の安定度/精度に高い要求があり,テープ線材をマグネットに応用する場合に,電磁現象の定量的把握と磁化の低減が今後の重要な課題であるとの印象を得た。

LHD / 核融合 (1B-p01/p06)

中性子照射試料用 15T マグネット・システムの導入計画と概念設計について,核科 研,物材研,原子力機構,阪大,東北大,JASTEC,神鋼と多くの組織の共同で報告が あった。

LHDの運転におけるACロス測定結果及びサブクール運転成果についての報告におい て,上下対のPFコイルのACロスが同じ設計であるにもかかわらず,2.5倍の差がある。

LHD導体の常伝導部伝播現象のより詳細な解析のため,3次元コードを開発し,例と してHeII冷却時の数値解析を行った結果が,京大と核科研から報告があった。今回は 超電導撚線部を一様としたが,今後はラザフォード撚線を模擬する予定である。

次のLHD型装置に高温超電導を用いた設計が報告された。Y系テープを単純に積層し た100kA級導体において,磁気遮蔽電流の定量的検討した結果,その影響は小さいこと が示された。

ITER_JT-60SA (2B-a06/a10)

本セッションでは,直前に行われたセッションに引き続き,国際熱核融合実験炉(ITER)について2件の発表と,「幅広いアプローチ(ITER-BA)」の枠組みで日欧の共同プロジェクトとして進められているJT-60SA装置について3件の発表があった。

まず,ITER用の超伝導線材の製造状況について報告があった。すでに国内の線材メーカにおいてブロンズ法によるニオブ3スズ素線製造の一部が行われており,性能評価の結果,12 T, 4.2 Kにおける素線臨界電流として190 A以上,±3 Tのヒステリシス損失として500 mJ/cc以下の仕様値をともに満足する結果が得られている。今後は,この結果をもとに計画どおり大量生産が進められ,トロイダル磁場(TF)コイル2個分の素線が来年3月までに完成する予定となっている。また,導体製造に関しては,ジャケッティング工程用に長さ1 kmの建屋が北九州に建設されている。一方,試作された導体の短尺サンプルについては,スイスのSULTAN装置を用いて試験が行われてきているが,磁場勾配中に設置されたTwin-Box型の接続部において素線間に偏流が発生し,導体の正確な特性評価の支障になっている懸念があった。そこで,今後の試験のために電流分布を均一化するための検討が行われており,有限要素法を用いた計算により,銅ブロックの残留比抵抗の値を適正に選ぶことで電流分布を均一化すると同時に接続抵抗としても仕様値に収まる接続が可能であることが示された。

次に,JT-60SA装置についても,まず導体の製造計画が示された。中心ソレノイド(CS)コイル用のニオブ3スズ素線と平衡磁場(EF)コイル用のニオブチタン素線については,線材メーカよりJAEAに納入された後,JAEAの敷地内に建設される長さ600 mの複合化設備を用いて撚線工程,ジャケッティング工程,リーク試験等が行われる計画となっている。今後,初期導体について臨界電流の確認試験が行われ,本製造が進行する予定である。また,EFコイル用導体として前回試作されたサンプルについては,JAEAと核融合科学研究所(NIFS)の共同実験によって特性評価が行われており,導体の回りに誘導ヒータを取り付けて安定性試験も行われた。その結果,安定性マージンや伝播速度が評価され,シミュレーションコードGANDALFを用いた計算によって検証されている。現状,実験結果を精密に説明できるところまではいっていないが,今後,精度が上がるものと期待される。一方,EFコイルとCSコイルの支持構造に関する設計についても検討が進行している。これらのコイルをTFコイルと接続するためのクランプについて,熱収縮によるギャップを低減するため,「かまぼこ型」のシムを入れる構造が提案され,最適化が行われている。

加速器 (1B-p07/p09)

1B-p07 ILC開発用…
(発表予定者の大内徳人氏がカナダから帰国直後のため土屋清澄発表)
次期高エネルギー物理計画である国際リニアコライダー(ILC)用加速器開発のためのクライオモジュールの低温試験結果について報告があった。侵入熱の低減,コスト削減のための5Kシールド削除の可能性などについて報告があった。
質疑では,RFケーブルの侵入熱低減のためのアンカー方法,ケーブルの材質,5Kシールドの削除について冷凍機との絡みなどについてであった。

1B-p08 J-PARCニュートリノビームライン用…
J-PARCニュートリノビームライン用超伝導マグネットの総合試験結果について報告があった。双極と四極電磁石を組み合わせたcombined function型の主超伝導マグネットの冷却・励磁試験は設計通りの性能であったこと,補正コイルについては電流導入部の発熱によるコイルのクエンチが定格の20%で起き,改造を予定していること,ビームが問題なく通ったことが確認されたことなどの報告があった。
質疑では,補正コイルのクエンチの原因やマグネット冷却温度の時間変化などについてであった。

1B-p09 J-PARCニュートリノビームライン用…
J-PARCニュートリノビームライン超伝導マグネット用冷却システムの総合試験結果について報告があった。システムの設計,動作の説明などの後,冷却試験が設計通りであったこと,冷却時間が予想より早かったことなどの説明があった。
質疑では,現在ビームエネルギー30GeV運転を定格の50GeV運転に増強したときの熱負荷の問題,クエンチ回収配管やビームによるマグネットのクエンチの問題などであった。

送電ケーブル (1) (1C-p01/p05)

1C-p01 66kV系統YBCO超電導ケーブルの過電流通電特性解析
交流超電導ケーブルの短絡電流が流れたときの事故解析を行っている。主な手法は電磁気学(電気回路)を利用した解析に温度上昇による特性変換を含んだ解析であった。石山先生がIEEEでも発表されている内容であり,今後,温度上昇に伴う機械的な解析も必要になってくるかと思えるが,ほぼ手法などは完成の領域に達してきたように感じられた。

1C-p02 三相同一軸ケーブルの事故時の温度上昇
3相ケーブルを同軸状に三相にしたケーブルの研究である。電磁解析(電気回路を含む)によってエネルギーがどれだけ線材に入り,それによって温度上昇を求めている。但し,事故には色々なパターンがあり,前の発表に比べてこのようなケーブル構造にすると,互いに影響し合うはずであるが,これらについては今後の研究が待たれるようであった。

1C-p03 三相同一軸型HTSケーブルの交流損失の最適化
前の発表と同じグループの研究であり,交流損の最小化のための検討を行っている。主にピッチを調整することによって最適化が行えるとしているが,実際の構造(それぞれの相にどのようにHTSテープ線材を配置するか)までは検討がなされていなく,今後の課題であると見受けられた。

1C-p04 超伝導電力ケーブルのらせん状テープ導体内の電流分布の計算
超伝導ケーブル構造を作るテープ線材内の電流分布を解析式(無限級数展開してあるために,有限級数までの計算を行う)に基づいて計算を行っていた。ケーブルを曲げるにはテープ線材間に隙間が必要になり,このためテープ線材の端部の電流密度が上がる結果が出ていた。これは直感的には正しいが,テープ線材に垂直方向に磁場が印加されると電流密度が下がるため,この様な効果を入れてる必要が今後出てくるであろう。

1C-p05 超電導ケーブルのき電線への適用可能性に関する検討
電気鉄道では多くが直流利用であるため,送電システムに直流を用いることは自然となり,検討が行われた。但し,原理アイデア段階での検討であり,今後実際の運用を入れた検討が必要になるように感じた。

送電ケーブル (2) (1C-p06/p09)

このセクションでは,NEDOプロジェクト関連の2件と,直流超電導ケーブル関連の2件,計4件の報告があった。

1C-p06では,電気絶縁材料の比較検討として,半合成紙でPP比率の異なる2種類,およびTyvekの3種類のサンプルについて,その誘電特性に関する評価を行い,tanδはTyvekを用いたサンプルが小さいこと,冷却時に誘電率やtanδの落ち着くまでに時間がかかり液体窒素の浸透に一定の時間がかかることなどが報告された。なお,絶縁特性,機械的特性などは今後評価を進めるとのことであった。

1C-p07では,NEDO「イットリウム系超電導電力機器技術開発」プロジェクトにおけるケーブル開発に関して目標,計画,目標などが紹介され,開発の第一段階としてクラッド基板を用いたGd系超電導線材による3kA級超電導ケーブルコアサンプルの評価として,通電特性についての報告があった。クラッド基板の導入による交流損失の低減は確認でき,目標達成のため導体構成など含めてさらに検討を進めるとのことであった。クラッド基板の材質について質問があったが,明示されなかった。

1C-p08,1C-p09では,中部大学を中心としたグループが開発を進めている超電導直流ケーブルに関する報告があった。
1C-p08では,室温からの冷却過程におけるケーブル,クライオスタットなど温度,超電導線および銅フォーマーの抵抗,ベローズ部分の収縮の測定結果が紹介され,抵抗変化,収縮量は各部の温度変化によく追随していることなどが報告された。これまでに3回の冷却サイクルを経験しているが,大きな変化はなく,特性の劣化などが見られないとのことであった。ケーブルの端末部の固定,可動構造に関する質疑などがあった。

1C-p09では,直流超電導ケーブルに関する特徴,適用例などの紹介があり,最後に新しい200m長のプロジェクトの紹介があり,今後整備,試験が実施される予定との報告であった。

超伝導応用 (1) (1C-a06/a10)

「超電導応用(1)」のセッションでは,まず新潟大・イムラ材研が, 高温超電導バルクの発生磁場を利用した永久磁石の同面異極着磁結果について報告した。神戸大・物材機構は,ヘリカル型海流 MHD 発電機の効率改善を目的とし,その流動特性について報告した。

東北大・奥村組は,磁気浮上型超電導免震装置について,永久磁石を Halbach 配列とした場合の浮上特性改善結果について報告した。

鉄道総研は,鉄道用フライホイールへの適用を目的とし,20 kN 対応超電導磁気軸受の静荷重試験結果を報告した。

原子力機構・応用科研他のグループは,工学材料回折装置「匠」(J-PARC)の概要を説明した。

電力応用 (1) (1C-a01/a05)

学会初日の最初のセッションであったが,40〜50名程度の聴講者があり,質疑応答も活発であった。

Y系線材を適用した変圧器開発,限流器用の超電導薄膜を用いた大容量素子開発,限流器の動作原理に関する基礎検討,自動車搭載と液体水素ポンプ用の超電導モータ特性の検討と特性評価が発表された。

限流器の素子開発では,大容量化の成功で超電導限流器実現の見通しが得られたとの報告があった。
超電導モータの発表では,回転子を超電導化することで,自動車用永久磁石モータとの比較でトルク,効率および軽量化の面で充分なメリットがあるとの報告があった。

電力応用 (2) (2P-p29/p34)

2P-p29は,抵抗型薄膜限流器のシャント抵抗の高低によって,クエンチ後の温度上昇速度と電流増加速度の相違により,限流特性が異なることを報告。抵抗型限流器の設計・解析への知見を示した。

2P-p30は,10MW級大型風力発電機のローターに超電導界磁コイルとバルクを適用した電磁磁界解析結果を報告。ステーターについても実用化を考慮した設計・解析を期待したい。

2P-p31は,レーザー核融合の照射ターゲットへの応用に向けた球状バルクの安定浮上について,浮上高度・復元力特性を実験と三次元電磁場解析の成果を報告。浮上安定性の解明が進展しているので今後の評価を期待したい。

2P-p32は,超電導機器用冷媒のスラッシュ窒素利用における線材熱安定性について,Bi-2223線材の過電流通電実験と数値解析を基に,スラッシュ窒素の固相率の増による熱的安定性の増加を報告。今後,スラッシュ窒素中のY系線材特性についての報告を期待したい。

2P-p33は,275kV超電導ケーブルの定常運転時損失(交流損と誘電損)を考慮した2種類の銅フォーマー(中空と丸撚り)900mm長ダミーケーブルの伝熱特性について,実験と数値解析の結果を報告。
今後,電流通電による伝熱特性の報告を期待したい。

2P-p34は,電気鉄道の直流き電線に超電導ケーブル適用し電圧低下及び変電所数の削減を目指すもので,Bi-2223線材で試作した1500V/1.5kA級ケーブルの通電試験結果を報告。今後,実用化に向けた技術開発の進展を期待したい。

磁気分離 (1) (2P-p22/p25)

全体として実験結果(装置のテスト)が報告された。そして議論は今後の改善点を中心に行なわれた。次回の発表には,更に改良された内容になって報告されることが期待できた。

2P-p22 5連HTSバルク磁石を用いた磁気分離装置の磁気分離実験結果が報告され,主に今後の改善点,流路の最a°適化について議論した

2P-p23 磁気クロマトの実験と計算が報告され,今後は磁気クロマトにおける磁気力と拡散力の最適点(バランス)の設計が今後の課題として挙げられた。

2P-p24 多孔質な磁性カーボンを使用した磁気分離が報告された。しかし磁性カーボンの高磁化化により現在10Tの磁場で行なっている磁気分離を2T程度で行なう(大量処理も視野に入れ)ことが課題として議論された。

2P-p25 磁化活性汚泥装置中の(分解するための)微生物を同定するためDNA解析を行なったが,議論段階のデータとして報告された。その理由として一般の培養後に解析するプロトコルでは,汚泥中の微生物には適用できないところも確認され,今後詳細な解析のためのには解析前に行なう前処理の検討が必要であると報告された。

磁気分離 (2) (3C-a01/a05)

磁気分離 (2) では以下の報告があった。

3C-a01(阪大)で,混合粉体中の不純物を分離する乾式HGMSシステムの処理向上を目指し,フィルタの閉塞を低減するためフィルタ構造とガス送気の検討を行った。フィルタは5mm角の5メッシュと3メッシュを重ね合わせて配置し,さらにガス送気量を増加させると,95%を超える高い分離効率を保ったまま,フィルタの閉塞状況の改善に成功した。

3C-a02(阪大)はHTSバルク磁石を用いたドラム缶洗浄廃液磁気ろ過システムの試験結果の報告であった。磁気アシスト沈殿で捕捉されなかった小さいフロックをHTSバルク磁石を用いて捕捉し,磁気ろ過処理水をCOD100ppm以下にする目標を達成した。しかし,実際にドラム缶洗浄後のすすぎ水に用いるには,COD10ppm以下にする必要がるとのことである。

3C-a03(阪大)は,重力分離や膜分離が適用できない高粘性流体中に混入する金属摩耗粉を除去するために磁気分離を用いたものである。3C-a04,3C-a05はいずれも宇都宮大のグループによる磁化活性汚泥法に関する報告であった。

3C-a04は,磁化活性汚泥法を適用しためっき廃液の資源回収,浄化プロセスの検討である。本研究より生物処理の管理の簡易化や余剰汚泥の負担を軽減した水処理プロセス構築の可能性を確認した。

3C-a05は,硝化反応,脱窒素反応の促進を目指し,磁化活性汚泥法のシーケンシャル制御によって窒素除去率の向上を図ったものである。磁化活性汚泥法において好気槽を前段に置くことで有機物の分解と平行して硝化を進めることができることを明らかにした。下水流入を曝気のタイミングに合わせて行うシーケンシャル制御による窒素除去は硝化率の高い値を得た。今後は,脱窒率を高めるための条件検討をパイロットプラントで進めるとのことである。

磁気分離 (3) (3C-a06/a10)

本セッションでは磁気分離の環境応用が2件,医学応用が3件報告された。

木村ら(3C-a06:新潟大ほか)は超電導バルク磁石を用いた無電解ニッケルめっき廃液からのニッケルの回収について報告した。廃液を自己分解させ,析出したニッケルを対向バルク磁石間にステンレス小球用いた磁気フィルタを設置しニッケルをほぼ100%磁気分離できた。強磁性マトリクスとして球を使った理由などについて議論があった。

坂口ら(3C-a07:阪大)は超電導磁石を用いたバラスト水中の水生生物の除去処理について報告した。生分解性凝集剤を適量使用することで分離効率を向上させマグネタイトを節約できるとした。処理流量,生分解性凝集剤の使い方,水生生物の選択分離などについて質疑応答があった。また単位の適正使用についての意見があった。

植田ら(3C-a08,3C--a09:早大ほか)は磁性ナノビーズを用いた医薬用タンパク質の高速磁気分離について2件報告した。1件は回収時に磁性フィルターに付着した粒子を消磁し脱離しやすくするために交流消磁を考え,LC共振を用いた回路設計をおこなったというもので,粒子の再利用,交流消磁以外の回収率向上法の検討などについて質疑応答があった。もう1件は磁性ナノビーズのリガンドとして新しく産総研で開発されたマンノシル・エリスリトール・リピッド(従来リガンドの100分の1の価格,種々の抗体に結合可能)を用いることで様々な抗体と結合できるアフィニティ磁性ナノビーズの飛躍的なコストダウンに成功したというもの。選択性についての質疑応答があった。

岡本ら(3C-a10:首都大ほか)は血清中の水銀の除去(岡本ら,首都大)をおこなうためのナノ磁気ビーズの開発と性能評価について報告した。SH基を導入した磁気ビーズは数ppmの水銀を90%吸着除去できた。また,2分程度で飽和まで吸着できた。磁気分離を容易にするために40℃に加温しビーズを凝集させて磁気分離した。血液に対する加温の影響,他の金属の吸着など実際の応用を想定した場合について質疑応答が活発におこなわれた。磁気分離の効率を向上させるために温度変化で凝集するビーズを用いるアイディアは応用範囲が広い興味深い手法であると感じた。


■ マグネット技術


コイル応用 (2) (1P-p29/p32)

本セッションでは,4件の報告があった。早大の梶谷らは,Icおよびn値の歪み依存性を考慮し,CIC導体の超電導特性を評価した内容について報告した。岡山大の今井らは,超電導バルク体の中に鉄リングを配置し,磁場分布を補正したNMRマグネットについて報告した。鉄の飽和や,磁場が低下する問題はありそうだが,引き続き最適化を実施するとのことであった。

岡山大七戸らは,有効電力法の実証試験について報告した。今回は,冷凍機冷却型6Tマグネットを使用してクエンチ保護試験を実施し,保護に成功したとのことであった。

NIFSの尾花らは,CIC導体の接続部における磁場特性について報告した。

コイル応用 (3) (3D-a01/a05)

コイル応用(3)では,コイル応用に関する様々な発表が5件あり,活発な議論がなされた。

鹿児島大古別府氏からは,多芯テープ線材の異方性を活かしたハイブリッド型コイルを瞬低SMESに応用し,交流損失を1/2に低減した試算が示された。

鹿児島大上之原氏からは,ピックアップコイルとポテンシャルリードを用いた非接触型のコイル異常検出方法の高感度化に関する発表があった。発表ではHTSコイルの秒オーダーの試験結果が示されたが,原理的にはより高速な変化の検出も可能とのことである。今後の検証が期待される。

東北大手島氏からは,同軸状に素線を配置したCIC導体の撚りピッチを調整することで偏流を抑制する方法について紹介があった。九大中尾氏からは,MgB2コイルの様々な温度における過電流通電時のコイル応答の試験結果が紹介された。今後のMgB2コイルの設計に有用なデータベースになると考えられる。

■ 冷却/計測


小型冷凍機 (1) (1D-a01/a05)

1D-ao1 低温度差熱音響スターリングエンジン(長谷川大地ら,東北大)
熱音響機器をいかに低温度差で駆動できるかという視点は,実際の応用に向けて重要であるが,この発表では1/Qという量を系に蓄積されるエネルギーと系の散逸エネルギーの比としてあらわす時,この量が温度比(TH/TL)によってどう変
化するかを蓄熱器の数をパラメータとして測定している。その結果,従来1個であった蓄熱器を5個に増やした時,TH/TLが1.19(ΔT=57℃)でも自励振動が始まったことが報告された。

1D-a02 ダブルインレット型パルス管冷凍機の音響インピーダンス(琵琶哲志ら,東北大)
筆者らが既に開発した技法により,パルス管内のある場所における圧力とガスの変位(流量)を同時に測定できることからパルス管の音響インピーダンスZが直接知ることができる。オリフィス(第2世代)とダブルインレット(第3世代)方式の場合のZを複素表示したところ,ダブルインレットにおいても条件によって第2世代にとどまる場合もあることがわかる。電子回路シミュレーションも有効ではないかという議論もあった。

1D-a03 加圧窒素を作動流体とした進行波型熱音響冷凍機の開発(上田祐樹ら,東京農工大)
熱音響型冷凍機の比較的高温度での実用を考え,動作流体も窒素ガスとして−50℃近辺の到達温度を目指している。ループ型冷凍機を構成するときの蓄熱器の位置などについてループを直線にしてシミュレーションを行なっている。

1D-a04 La系磁性材料を用いた室温磁気冷凍機の冷凍能力の数値計算(小山尚人ら,東工大)
室温付近の冷凍機にはGdやその合金が適用されてきているが,Gdよりも低い温度領域で磁気転移がおこるLa系を磁気作業物質に加え,全体としてLa系とGd系の多層蓄熱器を構成して,冷凍性能をシミュレーションしている。多層化する際の最適化について検討された。ブラインとなる水との熱交換特性,今後の実験による検証予定などが質問された。

1D-a05 南極昭和基地新超伝導重力計の設置計画(池田博ら,筑波大)
Nbの空洞球をマイスナー効果によって浮上させ,重力の相対値を高精度測定する装置は,地球上の様々な情報を得るために既に両極,赤道直下などに設置されている。筆者は2003年に冷凍機冷却タイプの重力計を南極に設置しており,2009年には機器の更新を行なう。より高性能化した超伝導重力計の事前のコミッショニングについて報告された。

小型冷凍機 (2) (1P-p01/p04)

ポスターセッションの小型冷凍機 (2) では4件の発表があった.聴衆がたくさん 集まり,活発に議論が行われていた.しかし,冷凍機関連の発表が少なかったの で,今後,件数が増加することを期待したい.

発表の内容は,室温磁気冷凍機の冷凍サイクルのシミュレーションによる解析 (千葉大,東芝),室温磁気冷凍機の熱交換器にかかる熱負荷の計算(千葉大,東芝),蓄冷材の積層方法の変化(Pb, HoCu2, GOSを高温側から積層し,GOSの量を変える)によるGM冷凍機の冷凍能力の向上(大島商船,NIMS),NMR用の希釈冷凍機(熊本大)であった.室温磁気冷凍に関しては近年精力的に研究が進められており,シミュレーションツールを用いた最適化による高性能な装置の開発が期待さ れる.

冷却システム (1) (1D-a06/a10)

1D-a06 ガス冷却ペルチエ電流リードでの熱電材料特性の熱侵入量への影響
ペルチエ電流リードの冷却効果と低熱伝導率を利用して熱の侵入を抑える。種々の材 料について対応するパラメータでシミュレーションを行った。形状についても最適化 を行う必要がある。

1D-a07 スラッシュ窒素生成装置の製作
冷凍機の冷熱を利用して液体窒素を固化し,回転羽で固体窒素を掻き取る構造のスラ ッシュ窒素生成装置の製作。試運転の結果,スラッシュ窒素生成を確認した。

1D-a08 金属多孔質体を用いた液体窒素伝熱促進に関する基礎研究
分割型高温超伝導マグネットの接続部でのジュール発熱による温度上昇を抑えるため 金属多孔質体を伝熱面に設置することを提案している。金属多孔質体の除熱特性を実 験的に評価し,伝熱促進が可能であることを示した。

1D-a09 超電導送電ケーブル用冷却システムの研究概要
超電導送電ケーブル用冷却システムの概要紹介。冷却システムの信頼性,無人運転の 可能性について検討している。

1D-a010 低温拡散法にて作製したCu添加MgB2多芯線材の高温特性
水素と電力を同時に輸送するシステムへのCu添加MgB2多芯線材の適用可能性について 検討した。臨界電流特性の環境温度および外部磁場依存性を調査した。

冷却システム (2) (1P-p05/p08)

このセッションでは4件のポスター発表が行われた.どのポスターにも常に4〜5の参加者が発表者と取り囲み,発表内容についての説明を受けながら,活発な議論が行われていた.この分野に対する参加者の関心の高さがうかがえた.ポスター会場としてやや会場が狭い印象を受けた.

流動特性 (1D-p01/p05)

本セッションでは5件の報告がなされた。その全てが混相流(気液もしくは固液二相流)に関するものであった。混相流に関してはなじみが薄いせいか,質問は少なかったように思える。また質疑に関しても流動特性そのものに言及したものというより,実機への応用等に関するものが多かったが,「流動特性」という観点から見た場合,発表内容は5件とも充実したものであった。

1D-p01はスラッシュ窒素の流動特性を数値解析から予測したものであった(前川製作所)。解析そのものについては難易度の高いもので,また計算結果についても粒径と流動状態の関係を明らかにしたものあり興味深く,開発段階である装置へのフィードバックが期待される。ただ固体の取り扱い法(ラグランジュ的なのか?等),計算によって得られた圧力損失と粒径の関係についても簡単に紹介していただきたかった。

1D-p02,p03はスラッシュ窒素・水素の熱,流動特性に関するものであった(東北大)。絞りがある流路で見られる圧力損失低減現象は,固体粒子から流体へのエネルギー注入により,流体粒子の剥離(逆流)が抑制されたことを考察として挙げ,その妥当性をPIV測定から明らかなものとしており説得力がある内容であった。

1D-p04は液体窒素のキャビテーション現象に関する発表であった(東北大)。連続的キャビテーションと間歇的キャビテーションが発生する条件を明らかにし,流れの臨界状態とノズル部の圧力回復が間歇キャビテーションを引き起こしているとの説明がなされた。
ß
1D-p05はHe II及びHe Iにおけるキャビテーションの熱力学的効果に関する発表がなされた(筑波大)。熱力学的効果の程度を表すシグマ数を用いたHe IIにおけるキャビテーション気泡温度低下に関する考察であり,古典的熱拡散係数を超熱伝導率に置き換えることでHeIIにおいては熱力学的効果がほぼ現れないと予測される一方で,実験では熱力学的効果が出現していることが確認され,この理由に関する議論が報告されたが,内容が深いこともあり10分という発表時間は短い感がした。

計測 / 基礎 (1) (2C-a01/a05)

このセッションでは5件の発表があり,その中で印象に残ったのは,@HTS-SQUIDによる水素燃料タンクの欠陥検出とA中性子回折測定用低温引っ張り試験機の開発である。

前者の発表は,水素燃料タンクの亀裂をロボット駆動SQUIDグラディオメータで評価できたというものである。どのくらのサイズまで検出できるのか,実際の検出磁場の大きさはどのくらいか,磁気ノイズの影響はあるのか,など多くの質問が出た。液体水素を保存する容器の安全性をチェックすることは重要で,今後の進展が期待される。

後者の発表は中性子回折を低温で行うための冷却システムを開発した成果で,従来よりも低温まで冷却できるというものである。中性子による加熱の影響はあるのかどうか,測定可能な試料サイズはどのくらいかなどの質問が出た。共同利用施設の機器開発は地味ではあるが重要である。今後も続けてもらいたい研究である。

計測 / 基礎 (2) (2P-p01/p05)

山形大の大嶋グループから第3次高調波と永久磁石を用いた非破壊での臨界電流密度計測手法について報告があり,特に後者は装置が複雑でなく,応用範囲が広い新しい手法であり今後標準化が期待される。

鉄道総研のグループからはSQUIDを用いたレールの白色層の非破壊検査に関する報告と,低温・強磁場環境で用いることの可能な光ファイバを用いた温度センサに関する報告があった。前者ではアクティブシールドを用いてレール上でSQUIDを移動させる装置を開発し,後者は光ファイバを用いることで低温・磁場中において50〜250Kの温度範囲で計測が可能なことを示しており,いずれも実用化が期待される。

NIFSの前川氏は,プラントなどの発電所で発生する300〜400度の排熱を利用した熱音響発電ユニットについて実験とシミュレーションによる検討を行っている。当該温度の排熱の利用はこれまで困難であったとのことで新しいエコロジー技術として注目に値する。

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