■ HTS


バルク/線材(1A-a01/05)

バルク/線材のセッションでは,5 件の講演が行われた。
東大の石井らは微量 Sr 置換を行った RE123 溶融凝固バルクが低温にて高い臨界電流特性を示すことを明らかとした。低温において最適な置換量は 77K のそれとは異なる可能性があることから,今後の更なる進展が期待される。

岩手大の藤代らは,ピン止め力が不均一であるバルク体へのパルス着磁において高い捕捉磁場を得るためには,
従来法と異なる着磁法が必要であるとの見解を示した。
RE123 系線材の細線化に関する講演が 2 件行われた。

住友電工の種子田らは,ケーブル応用への適用を目的として 4 mm および 2 mm 幅に切断した線材の臨界電流特性について調べており,2 mm 幅に切断した 20 m 長の線材においても Ic の局所的な低下がないことを明らかとした。

一方,超電導工研の須藤らは基材は切断せずに超電導層までをレーザによりスリット加工したフィラメント線材の加工性能について評価しており,5 mm 幅線材を 5 分割した 50 m 長の線材において加工前の総 Ic の 80 %を越える総 Ic が得られていることを示した。

早稲田大学の河野らは,RE123 線材に過電流パルスを通電した際に生じる特性劣化のプロセスを,通電特性と線材の層間接触状態との対応から明らかとする手法について提案するとともに,その実験結果について示した。今回評価した線材においては,安定化層の銅と銀の界面のハンダ部分で剥離が生じること,また,この剥離が生じた箇所では Ic が劣化していることを明らかにした。

臨界電流 (1) (1A-a06/11)

臨界電流というくくりのセッションではあったが,発表内容はバラエティーに富んでいた。
発表6件中,5件はYBCOコーテッドコンダクターに関するものであった。筆者の興味の範囲で報告する。

高橋(昭和電線)は,バッチプロセスの TFA-MOD 法 YBCO コーテッドコンダクターの高性能化について発表した。Ni-W 基板の平滑性の向上と中間層の表面処理が Ic 向上に有効であるとの話であったが,本当に何が効いているのか緻密な研究を行い,更なる特性向上に結びつくよう期待している。

菅野(京都大)は MOCVD-YBCO コーテッドコンダクターの歪効果について発表した。A15 や MgB2 の場合とは異なる(同じ論理で説明できない)結果であり,精密な実験を繰り返す必要はあるが,学術的に掘り下げていくように期待している。
馬渡(産総研)は,システムを想定した無限積層した線材の交流損について解析結果を報告した。実用への展開が進んでいく中で解析の進歩と,それを材料にフィードバックしていくことが望まれる。

人工ピン(1A-p01/04)

希土類系高温超伝導薄膜における人工ピン導入効果に関する 4 件の講演が行われた。

Mele(九工大)らは,YBCO膜のPLD成膜において,BaZrO3(BZO) および BaSnO3(BSO) をそれぞれ混合したターゲットを用い,導入されるナノロッドの形態とピン止め特性との関係について調べた。BSO ドープ膜では103 GN/m3の最大ピン力密度が得られ,BZOドープ膜の約 2 倍の値に達する。両者の違いは,形成されるナノロッドの直線性の違いに起因する磁束線との相関距離の差異によって説明できるとした。今後,膜厚依存性や,次元性との関係が解明されると事を期待したい。

淡路(東北大)らは,超伝導転移点近傍の磁界下の抵抗の角度依存性より,(Y,Ho)BCO 膜における c 軸相関ピンの影響について考察した。角度依存性に現れるディップ構造はc軸相関ピンと,ランダムポイントピンとの競合によって決定され,本薄膜では優れた結晶性に伴い,他の薄膜に比べてランダムポイントピンが相対的に弱いことから,従来になく大きなディップが観測されることを示した。

舩木(名大)らは,SmBCO 膜への BZO ナノロッド導入効果について報告した。成膜に Vapor-Liquid-Solid(VLS) 法を用いることで,膜の結晶性および超伝導特性が向上する。すなわち,BZO ドープ試料でも Tc が顕著に低下することなく良好な超伝導特性が得られると共に,優れた相関ピンとしての効果が得られる。さらに,シード層にBZOナノアイランドで修飾した結果,BZO ナノロッドの密度が増加し,Jc が向上することを示した。今後,BZOの密度や,欠陥サイズを制御できるようになれば,ピンに関する基礎的パラメータを把握する上でも興味深い実験として期待できる。

木内(九工大)らは,GdBCO 線材にZrO2 ナノロッド欠陥を導入した試料について,Jc の角度依存性の支配因子に関する議論を行った。コヒーレンス長の角度依存性および,欠陥との相互作用距離よりピン止めの角度依存性をモデリングし,実測結果との比較を示した。導入された欠陥の角度分布を考慮することにより,Jc の角度依存性をある程度定量的に記述できるとしている。

Bi系線材(1) (1D-p01/04)

聴講者は20人程度で,非常に少なく,質問もあまり無いセッションでした。

1D-p01:3ply-DI-BSCCO テープ中のフィラメント破断ひずみの増大:大澤(京大)
DI-BSCCO テープの耐歪特性を改善する目的で,テープ線材にSUSや真鍮を積層して三層構造にしたもので,機械的特性評価をした内容。
補強材複合化で,BSCC フィラメントの破断ひずみが増大し,補強効果を確認できた。
(Q) 元のフィラメントの破断ひずみの0.1%よりも大きな歪でも破断せずにもつようになった理由は?
(A) 歪量が元の線材時より大きくなっても,もっている点はまだ分かっていない。補強材による分散効果のようなものがあるかもしれない。

他にはBi-2223線材の交流損失低減を目的にツイスト加工した際の,線材Icへの影響や,損失低減に関する発表であった。

ピンニング特性(1P-p12/15)

1P-p12 (Y1-XREX)BCO (RE=La, Pr) 超伝導バルクの作製と特性評価
佐藤 清知, 山口 大吾, 内藤 智之, 藤代 博之 (岩手大)
Y サイトに La,Pr を 1 % 程度まで置換したが,Jc(B) 特性の向上は見られなかった。

1P-p13 MgB2 単結晶における Intrinsic ピンニング効果の観測
野島 勉, 高橋 一真, 長徳 峰美 (東北大); KANG Byeongwon, LEE Sung-Ik (Pohang理工大)
MgB2 単結晶試料のトルク曲線(磁場 H 依存性と角度θ依存性)を測定。c 軸と垂直方向に磁場がかかったときの挙動は以下のようであった。
- トルクのθ依存性:ヒステリシスが増加。
- 磁化ヒステリシスΔMのθ依存性:鋭いピークを示す。
これらは一見 intrinsic ピンニング効果のように見えるが,磁束線コアのサイズ(コヒーレンス長)が秩序パラメータの c 軸方向の振動周期に比べ 10 倍以上大きいことから,ピンニングの原因は MgB2 単結晶中の不純物ではないかと推定。

1P-p14 作製条件の変化によるナノロッド構造と超電導特性
一瀬 中 (電中研); MELE Paolo, 松本 要 (九工大); 甲斐 英樹, 向田 昌志 (九大); 堀井 滋 (東大); 喜多 隆介 (静岡大); 吉田 隆 (名大)
ナノロッドの材料をBaZrO3,BaSnO3,Ba(Nb0.5Er0.5)O3と変えるとナノロッドの構造が変化する。ポスターセッションで議論することで,構造が決まるメカニズムについてのヒントを得たいというのが発表者の意図であった。このようなポスター発表の積極的な利用の仕方が広がると学会が活発になるのではないかとの印象を受けた。

1P-p15 DyBCOコート線材の臨界電流密度における重イオン照射の影響
磯部 現, 木内 勝, 小田部 荘司, 松下 照男 (九工大); 岡安 悟 (原子力機構);
PRUSSEIT Werner (THEVA)
マッチング磁場Bφ=3Tとなるように Ni イオンを照射したが Auイ オン照射の場合のように Jc-B 特性は改善しなかった。これは柱状欠陥の半径が Ni イオンは約 2 nm,Au イオンは約 5 nm と異なるためであり,欠陥サイズの重要性を示した。

HTS薄膜/デバイス(2D-a05/08)

名大の吉田らは NEG-123 に BaZrO3 を人工ピンとして導入する試みをしており,ここではナノドットをあらかじめ作っておいて,そこからロッドが成長していく様子を捉えた。その結果,中磁界で Jc が向上することを報告した。

九大の波多らは組成の異なる MgB2 薄膜の組織を観察した。Mg-rich であると,Mg が金属として残るために試料が劣化しやすく,B-rich である方が c 軸配向性が良いなどの特徴があることを示した。

東北大の多田らは電気化学的手法により Y123 膜に電子ドープしていくことができたことを報告した。絶縁体になり,金属的な性質まで示すようになってきたので,今後電子ドープ状態の超電導が得られるか興味深いところである。

山形大の大嶋らは超電導フィルタのサファイヤロッドの高さをミクロンオーダーで調整することにより,データベースと付合わせて自動チューニングできるシステムについて報告を行なった。現在は 3 段フィルタであるが,より多段についても検討しているということであった。

HTSバルク (2D-a01/04)

当該セッションではRE123バルクについて、その作製及び基礎特性評価に関するもの3件、バルク応用が1件の計4件の発表がありました。


■ 金属系線材


金属系 SC 線材(1P-p01/06)

1件の人工ピンに関する発表を除いて,全てA15型化合物線材に関する発表で,Nb3Al に関する発表が3件もあった。この3件の発表はいずれも実用に直結する興味深い発表で,この分野の発展を実感する発表であった。残りの発表はNb3Sn 線材の歪み効果予測に3次元歪みに着目した解析を行った発表と,V3Ga への Mg 添加効果に関するものであった。

MgB2 (1)(1P-p07/11)

九州大の大橋から高密度 MgB2 バルクの力学特性について報告があった。MgB2 バルクは,B と MgB2 の混合粉末に Mg を拡散反応させて作製された高密度バルク体で,今回 SiC とナフタレンを添加し,そのバルク体の硬度や破壊靱性を調べた。その結果,微細なボイドの減少が見られ,それらの特性が顕著に改善することを報告している。

NIMS の藤井から報告された MgB2 作製方法は,安息香酸ベンゼンなどの弱酸性溶液であらかじめ MgB2 粉末を処理し,余計な MgO 相を除去するというユニークな方法である。今回炭素置換 MgB2 線材を作製したが,Ex-situ 法の場合熱処理中に C が分解されることによって粒間に弱結合を生じさせていると報告している。

九州大学の田中らは,Ta バリアを持つ 7 芯の CuNi シース MgB2 多芯線の交流損失について報告し,多芯線構造モデルで定量的に評価できることを報告した。

日立研の高橋らは MgB2 線材で作製した永久電流スイッチについて報告し,今回 1000 A 以上の永久電流運転を行って,NbTi-MgB2 接続部一箇所あたりの抵抗が4.7×10-13Ωという結果を得ている。

九州大の柁川は液体水素ポンプ用の MgB2 モータにおける固定子巻線の損失特性について評価した。モーター自身を液体水素内に配置するユニークな構造で,今回固定子巻線を MgB2 線材で構成した場合の交流損失を有限要素法により定量的に評価し,高効率化を実現できる見通しを立てている。

MgB2(2)(2C-a01/04)

全般的に特に目新しい知見はなかった。MgB2 を盛り上げる努力がなされているが,研究開発の行き詰まりが感じられる。線材メーカーが参画してくるようになればまた再び活気もでてくると思われる。いずれにせよ線材化プロセスのブレークスルーが求められる。

MgB2(3)(2C-a05/08)

このセッションで行われた4件の講演の概要を以下に記す。

岡山大学の桑嶋らは東海大でホッとプレス法により作製されたSiC 添加 MgB2 単芯線材の磁束ピンニング特性を調べ,ホッとプレスによって組織が緻密になり Jc が改善したこと,低磁場と高磁場で異なる 2 種のピンが効いている可能性があることを報告した。

鹿児島大学の土井らは MgB2 層の厚さを変えた MgB2/Ni 多層膜についてNi 層( 1 nm厚)に平行に印加した磁場下における Jc-B 特性を評価し,Fp が Ni 層の間隔にマッチした磁場で極大となることを明らかにした。

熊本大学の米倉らは Ni 層が薄い( 0.3 nm 厚) MgB2/Ni 多層膜においても Ni 層間隔にマッチした平行磁場で Jc の極大が現れることを示した。山口大の何らは,人工ピンとして非対称な周期的段差を設けた Nb 膜のピンニング特性を磁気光学法で調べ,非対称なピンニング力に基づく残留磁束密度分布が観測されたことを報告した。

■ 超伝導応用


超伝導応用 (1)(1P-20/24)

超伝導応用 (1) では,4 件の報告があった。

1P-p20 は鉄道総研の磁気浮上鉄道用超電導磁石の機械加振試験について,耐久性評価方法の予備試験結果を報告した。2 種類の振動モード(推進モードと浮上モード)を同時に再現するためには,両振動モードの振動数比を整数にする必要がある。鉄道総研は超電導磁石の両側に補強梁を取り付けることで,振動数比を 2 に近づけることが可能であることを示した。

1P-p22,1P-p23 は新潟大を中心としたグループによるバルク磁石を用いた磁気分離に関する報告であった。

1P-p22 は廃液中のニッケルを回収するために,フィルタに SUS430 のボールを用いている。磁極部分(バルク体)を動かすことにより,フィルタを磁場中から外し,フィルタ洗浄による回収効率を上げることを考えている。ただし,バルク体とフィルタの距離が近すぎると,磁性材である SUS とバルク体との磁気力のため,フィルタを動かすのが困難になるとのことであった。

1P-p23 は 1P-p22 と同様の装置で,バルク磁石の着磁を field-cooling とパルス着磁の 2 通りについて検討し,永久磁石型との比較を行った。1P-p24 は宇都宮大のグループによる磁化活性汚泥法に関する報告であった。以前より,同グループは本学会で報告しており,プラントにおける実証試験も行っている。今回は様々な廃水(洗剤廃水,PVA 含有廃水,環境ホルモン含有廃水,フェノール含有廃水)ついてその浄化処理を検討した。いずれの廃水もゼロエミッションで分解でき,標準的な浄化法として利用できることを示した。

超伝導応用 (2)(2B-a09/12)

2B-a09「医療用タンパク質の高勾配磁気分離システム・・・」に関して早大より発表があった。磁性ナノビーズを高勾配磁気分離で高速回収を行うためのフィルターの設計に関して磁気力の磁性細線の配置依存性の報告があった。格子状に配置し磁場が 2 T で磁気力は最大となる解析結果が示された。

2B-a10「携帯型超伝導バルク磁石システムの開発 2」の発表が日立からあり,10T の磁場中冷却で 39.1K で6.76 T の磁場発生がなされた。また表面 10 mm での磁気力係数は1000 T2/m に達する。さらに車に冷却用電源を積んでの移動が可能である。

2B-a11「超伝導バルク磁石を用いた永久磁石の着磁」が新潟大から発表された。3T のバルクを用い複数スキャンで 0.2 T の着磁に成功した。また片面に S 極 N 極を一緒に着磁することも可能であることが示された。

2B-a12「磁気浮上型超電導免震システムの荷重分布に対する水平振動特性」が東北大より発表された。編荷重の場合でも傾斜着磁により水平の磁気浮上が達成できる。また 5 Hz の振動に対する変位も均一荷重と同程度の特性を示し免震効果が期待できることがわかった。スケールアップに関する課題はこれから検討する。

磁気分離 (1)(2B-a01/04)

2B-a01:海洋生態系保全のための水生生物の磁気分離に関する基礎的研究(阪大)
海洋系生態保全のために,外来水生生物を磁気分離法で高速処理することを目指した基礎的研究成果報告水生生物は強磁性を持たないため強磁性粒子を付着させる必要があることから,マグネタイトと水生生物(テトラセルミス)との相互作用について調べた結果,両者の相互作用は親水性相互作用や静電気的相互作用ではないことが明らかとなったとのこと。

2B-a02:エマルション磁気分離に関する基礎的研究(阪大)工業用水や生活廃水に含まれる油のうち,最も処理が困難な乳化油の磁気分離処理に関する基礎的研究成果報告模擬排水とバルク磁石を用いて分離実験を行ったところ流速が 430ml/min の場合でも分離効率が高く,COD も検出限界以下となり,磁気分離による高速処理が可能であることが明らかになったとのこと。

2B-a03:電磁力を利用した溶融金属内不純物分離に関する基礎的研究(阪大)
溶融金属内の不純物分離に,HTS バルク磁石を用いた電磁分離法を適用することを目的とした基礎的研究成果報告
溶融金属内に絶縁被覆した鉛球体を入れ,HTSバルク磁石に近づけた状態で,溶融金属に直流電流を印加することにより,鉛球体に電磁アルキメデス力を作用させ,鉛球体を浮上させることに成功したとのこと。

2B-a04 FHTSバルク磁石を用いたドラム缶洗浄廃液磁気ろ過システムの開発
(阪大,日本板硝子エンジニアリング,中央産業,関西ドラムセンター)
ドラム缶再利用には,ドラム缶を洗浄する必要があるがその洗浄水を再利用するための磁気ろ過システムに関する基礎的研究成果報告磁気シーディングされた大きいフロックについては永久磁石によりろ過し残りを HTS バルク体で精密ろ過することにより,洗浄廃液中の COD 成分を高効率で急速にろ過可能であることが明らかになったとのこと。

電力応用(2) (2P-p20/26)

限流器の要素試験や実機評価試験の報告,バルク超電導体を利用したモータ,系統安定化 SMES の概念設計等の発表があった。

加速器/NMR(3B-a05/08)

本セッションでは,加速器関連3件とNMR関連1件の発表があった。

ビーム輸送用超伝導カーブドダイポールコイルは,重粒子線がん治療への適用を想定して設計されており,超伝導コイルを用いることによって,現状用いられている常伝導コイルを用いた装置と比べて曲率半径を約 4 分の 1にでき,大幅なコンパクト化を図れるものと期待されている。コイルの磁場分布について,ビーム軌道上での積分磁場を用いた最適化設計コードが開発され,所定の精度を持つ湾曲したダイポールコイルの詳細構造が検討されている。実際のコイル巻線については,超音波を用いて線材を接着する製作方法が検討されている。これについて,超伝導線の具体的な冷却方法や冷却安定性の評価に関して質問があったが,間接冷却における安定性マージンの評価等について,今後具体的な検討を行う計画とのことである。

気球搭載型の宇宙線観測用マグネット BESS-Polar を用いた南極における実験について,報告が行われた。極薄肉の超伝導ソレノイドは,その完成度が極めて高く,新たに3重構造の輻射シールドを採用することによって以前よりも熱侵入量を減らし,稼働時間を伸ばすことに成功している。宇宙線の観測は無事に成功し,今後,データの解析やマグネット本体の回収が行われる予定となっている。また,搭載されたハードディスクは低温下でしばらく放置されたにもかかわらず,データの読み取り等に問題はなかったとのことである。

大強度陽子加速器 J-PARC のニュートリノビームラインに用いられる複合磁場型超伝導マグネットシステムについては,全 32 台のコイルのうち 28 台がすでに完成し,冷却と励磁試験が行われた。コイルはすべてクエンチ(トレーニング)なしで所定の性能を達成しており,良好な結果である。クエンチ伝播促進用のヒータ試験も行われ所定の性能が確認されているが,ヒータパルスの印加から常伝導伝播開始までの時間遅れについは,カプトンテープによる熱絶縁によって説明可能と評価されている。今年中には全ての超伝導機器の設置が完了し,その後,全系の冷却励磁試験が行われる計画となっている。このシステムの冷却について,二相流ヘリウムではなく超臨界ヘリウムを用いている理由や励磁時の交流損失に伴う温度上昇の評価などについて質問があったが,耐電圧の観点からの選択であることや,シンクロトロンと違って励磁が定常であるため熱侵入だけを正確に評価している等の回答があった。

SQUID-NMR は,現在用いられている高磁場を用いた NMR システムと違い,SQUID を用いて超高感度な磁気計測を行うことで,低磁場で用いるタイプの NMR であり,低コストで簡便なシステムが構築できると期待されている。今回報告された実験では,簡単なコイルを用いて純水に 30 μT ほどの静磁場を印加し 50 kHz のサンプリングで測定を行ったところ,得られたスペクトルに若干の誤差が認められるものの,原理検証実験としては十分な成果が得られているものと判断できる。ただし,詳細な解析は現在進行中である。測定感度についても,現在の高磁場を用いたシステムより向上できる可能性があるということで,将来に対して期待が持てる技術と考えられる。

送電ケーブル (2)(3C-a05/08)

送電ケーブルのセッション全体の印象を下記にまとめます。

1)Bi 系ケーブルで住友電工+東電で行っている交流ケーブルでの短絡電流特性について報告があり,実質的な検討行われている段階に達した感じがした。そして,質疑応答で現在の JEC 規格は過酷なのでそれを緩和するための高速遮断器の開発や企画それ自体の見直しなどが行われていることを発表者は話したが,是非このような検討を進めて欲しいと思った。

2)Y 系ケーブルの進展が順調に推移しているように感じた。次回に世界の動向も含めてY 系ケーブルの review が聞けたら良い企画になるのではないかと思った。


■ マグネット技術


マグネット技術 (2)(1C-p05/07)

参加者は約30名。
セッション運営は良好であった。発表があった 3 件のテーマの対象範囲が多岐に渡ってたせいか,ディスカッションにやや盛り上がりを欠いたようである。

1C-p05: 長尺GdBCO線材の臨界・・・(東川甲平 他)
GdBCO 線材による小型高磁界マグネットの可能性について,現状の線材の通電特性に基づき議論している。長尺化,電磁力対応がうまくいけば有望としている。

1C-p06: コンジット型BSCCO2223ケーブルの・・・(伊藤悟 他)
コンジット型 BSCCO2223 ケーブルを機械的バットジョイントで接合する際に,45度の傾斜面をもつ接合面に銀メッキ処理を行ったり銀箔挿入する方法により,接合抵抗を 1μΩあるいはそれ以下に低減できることが示された。実使用条件下でのジョイント部の形状について質問が出された。採用時の検討事項になりそうであった。

1C-p07: 急熱急冷・変態法 Nb3Al 素線の・・・(名原啓博 他)
高磁界下での臨界電流特性を改善できる急熱急冷・変態法 Nb3Al 素線について,軸方向歪特性の測定結果が報告された。ITER用に開発されたNb3Sn素線と比べて,臨界電流密度(12 T,4.2 K),軸方向歪特性ともに優れていることが示された。なお,講演タイトルにつき,概要集で示されたタイトルの最後尾の「と波状変形特性」が省略され,その範囲での報告となった。

超伝導の数値解析(2D-a09/12)

高山ら (2D-a09:山形大ほか)は,永久磁石と超伝導膜とに働く電磁力より超伝 導膜の臨界電流密度 jc を測定する方法に関して,この実験状況を再現する数値計算について報告した。超伝導体の E-J 特性として冪乗則(n値モデル)を仮定し,超伝導膜に誘起される遮蔽電流密度について解析を行った結果,本測定法の実験状況をうまく再現すること,および本測定法が妥当であることを確認した。

大嶋ら (2D-a10: 山形大ほか)は,2D-a09 の報告と同様の永久磁石による超伝導 膜の臨界電流密度測定法について,その測定原理と装置の概要を報告し,超伝導膜面内のjc分布を測定した結果について報告した。膜のエッジ付近では,電 磁力が小さくなるため jc が実際よりも過小評価されることを示した。電磁力の信号がノイズに比べてあまり小さくならない程度に永久磁石を小さくするなど,今後測定系の最適化を検討することを述べた。

冨中 (2D-a-11: 文科省ほか) は,らせん導体の周りの磁場分布やインダクタンスに関する解析的計算について報告した。電磁気の教科書にあるコイルによる 磁場やインダクタンスの単純な公式には,現実的ならせん形状が反映されていないことなどの問題点を指摘し,厳密な解析式の重要性について述べた。機器等とファイルの相性の問題か,肝心の解析式がほとんど見られなかったのは残念であった。

冨中(2D-a-12: 文科省ほか) は,ツイストした超伝導複合多芯線の電流・磁場分布について,回路モデルによる理論解析について報告した。多芯線に通電し た場合や横磁場・縦磁場を印加した場合の遮蔽電流や磁場分布の計算結果を示 し,場合によっては従来仮定されていた電流分布とは異なる結果となることを報告した。

コイル技術(2)

セッション「コイル技術(2)」について報告する。

豊橋技科大の小田らは,RE123 超伝導バルク電流リードに並列に常伝導金属を接続することで保護した場合の定常熱侵入量と常伝導転移時の温度上昇について数値解析し,常伝導金属材料の選定と最適寸法の設計が重要なことを示した。

横浜国大の赤地らは,高温超伝導テープ線を巻いた加速器用のレーストラックコイルについて,磁化電流が発生磁場の均一度に与える影響を数値解析し,1 % 程度の寄与があり得ることを示した。

核融合研の高畑らは,10 年間にわたり運転してきた LHD ポロイダルコイルの圧力損失特性の変化についてまとめ,初期冷却時の気体の固化が当初の 3 年間の大きな圧損の主要因であったが,効果的な対策により現在は最小レベルにあることを報告した。

九工大の小田部らは,住友電工・福工大と共同で,Bi-2223 銀シーステープ線を巻いた超伝導マグネットのサブクール液体窒素中における励磁試験結果を紹介し,これまでに得られている大気圧下の液体窒素に対する実績の約2倍にあたる 0.78 T の中心磁場発生に成功した。

■ 冷却/計測


熱伝達(1D-a01/05)

1D-a01 一端に平板発熱体を設けた 2 つの狭蕗付きダクトにおける超流動ヘリウムの三次元熱伝達特性数値解析
三次元熱伝達特性数値解析コードを開発し,平板発熱体の臨界熱流速を数値解析し実験結果との比較検討を行った。
定常状態の判断はエントロピーから。実際の超伝導マグネットはもっと狭蕗では?

1D-a02 超臨界ヘリウムにおける水平平板間自然対流の数値シミュレーション
自然対流の場合の水平平板下側加熱の 2 次元および 3 次元の数値解析。
微分方程式を差分法でなくフーリエ変換を用いたスペクトル法で解いている。

1D-a03 スラッシュ窒素の圧力損失低減効果と熱伝達特性
極低温固液 2 相スラッシュ流体が管内を流動する際の流動特性,熱伝達特性について の研究。
固体成分は約一割。

1D-a04 低温・希薄ガス雰囲気下における伝熱特性の実験解析
伝熱特性の圧力依存の理論解析と実験による確認。
超伝導磁気軸受けの冷却などに有効。

1D-a05 成分比が異なる人工空気の臨界点付近での Soret 効果に関する研究
窒素 0.2 酸素 0.8 のモル分率の人工空気は正の熱拡散比を示すことを確認した。

計測/可視化(1D-a06/11)

1D-a06
内容:超伝導トンネル接合素子を用いたテラヘルツ波検出器アレイ開発とセンサー単体で IC カードを撮影した画像の紹介,また,天文分野やその他分野への今後の応用についての報告。
議論:テラヘルツ波利用の長所として,ミラーやレンズを使用して光のように取り扱えることからコンパクトな装置設計ができ,更に X 線に比べて安全である。また冷凍機の発達により極低温への障害が無くなってきたので,その応用分野が急速に広がることが期待されるということであった。天体観測についての質問では現在,国立天文台と理研で進められている南米チリでの例が紹介された。

1D-a07
内容:1 K 以下の温度領域では外部磁場印加なしに共鳴現象に伴う温度ゆらぎや磁場の変化を捉えることによりNMR信号が検出可能。
議論:装置やセンサー(温度計や SQUID)の製作に注意が必要であるが,NMR 信号の検出は可能である。この検出の利用に関しては,共鳴点が不明な試料において最初に広く共鳴点を探る際,有効である。試料に関しての質問では,現在のところ試料としては磁性イオンしか試していないとの回答であった。

1D-a08
内容:白金細線(径 50 ミクロン)周りの He II 膜沸騰の可視化実験についての報告。議論:可視化画像は良好に得られているが,データ整理過程でのHeI層厚さの算出方法について不明確な点が指摘された。蒸気膜厚が0.1 mm 以下の薄い時にバス温度の違いによる熱伝達率の差異が見られなくなる現象についても今後詰めてゆく必要がある。

1D-a09
内容:自由落下塔用のHeII沸騰可視化実験装置開発に関する報告。小型可視化クライオスタットが製作され,細線周りのHe II 沸騰画像が得られていた。
議論:可視化動画画像についてヒーターワイヤーの位置など実験状況に関する質疑が交わされた。その他,熱輻射シールド部の構造についての質問などがあった。

1D-a10
内容:横振動加振させた時の液体水素表面の減衰振動について調査した実験結果の報告。液体水素,液体窒素,液体ヘリウム,超流動ヘリウム (He II) について,横振動加振を加え可視化実験を行った結果,液面振動の減衰から減衰係数と動粘性係数の間に比例関係が認められた。しかし,周期に関しては液体ヘリウムで明らかに高い値が示され,その原因は現在まだ不明である。
議論:液体ヘリウム周期に関し,超流動ヘリウム(HeII)に異常が出るのであれば分かるが,なぜ液体ヘリウム(He I)だけ異常を示すのか会場と発表者との間で議論が交わされたが結論を得るには至らなかった。今後の進展が期待される話題である。

1D-a11
内容:タコニス振動と呼ばれる熱音響自励振動現象を利用した液体窒素液面計についての報告。液体ヘリウムの場合,液体と室温との温度差が大きくタコニス振動が生じるが,窒素の場合,ヘリウムで使用する管では温度差が十分ではなく安定領域となり振動が起こらない。スタックを入れることで不安定現象を起こすようし,液体窒素の液面位置を正確に検出することに成功した。
議論:形状決定に関する質問に対し,理論解析から適当な管とスタックの選択により不安定現象を起こすよう設計を行った旨の回答であった。

冷却冷凍/計測 (2P-p27/30)

担当セッションにおいて,印象に残ったのは,独創性でいうならば,2P-p29 のサーチコイルを用いた器械的擾乱発生位置評定法の実験的検討(青木)で,力学的ひずみをサーチコイルで検知するというのは,面白い発想でした。

アイデアと実用化への距離の近さからいうと,2P-p30 SQUID を用いたレール白色層の検出に関する基礎試験(宮崎)既存の方法にくらべ,初期段階のレールシェリングを探し出せること,かつスピードアップに対する実現度も高く,いい研究であるという印象を持った。今後に期待したい。

低温機器(3D-a01/04)

3D-a02 については,低温機器に合わない発表内容だったと言えます。どちらかと言えば,水素関連の話で,発表内容も殆ど概念的なものでした。他の発表と比較して特に違和感を覚えました。

また,3D-a04 においては,継続している研究らしく導入部での話が,前回の会議に出ていないと分かりづらいと感じました。継続されておこなわれている会議なので,やむを得ないのかも知れませんが。初めて聞く人にとっても理解し易いように工夫された方が親切だと思います。また,低温機器の温度範囲としては,温度が高すぎる(0 ℃以上)印象を受けました。

磁気冷凍機(3D-a05/09)

発表は 5 件とも行われた.後半 3 件は同一テーマに関する互いに関連した報告であった。
【宇宙用連続型断熱消磁冷凍機(1)〜(3)】パラボリック飛行試験による微小重力化での磁気冷凍機の性能が報告された.振動対策や温度制御パラメータの最適化については現在も取り組み中だが,安定的に動作することが確認された
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