低磁場SQUID-NMRシステムの開発

Development of low-field HTS-SQUID-NMR system


廿日出 好, 林 正造, 田中 三郎 (豊橋技科大)
hatukade*eco.tut.ac.jp


Abstract:核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance: NMR)は有機分析化学に必須の重要な手法である。NMR測定では、従来、超伝導磁石を用いて数T~数10Tの強磁場を試料に印加し、プロトン1Hの検出では数100 MHzの高周波NMR信号を誘導コイルで検出する。NMR信号強度は印可磁場強度に依存するが、磁場の強度を高めることは磁場の空間的不均一性を増大することとなり、信号スペクトル線幅の増加、すなわち分解能低下を引き起こす。これを避けるためには、磁石の大型化、あるいはシムコイルなどによる磁場分布の調整が必要となり、装置コストを増大する要因となっている。一方、超伝導磁石などによる高磁場を必要としないSQUIDを用いた低磁場NMRが近年提案されている。NMR信号周波数(ラーモア周波数)は磁場強度に比例するので、低周波数帯域で優れた感度を有するHTS-SQUIDを受信器として用いると、常温コイルを用いた数10μTという低磁場でのNMR計測が可能となる。低磁場のため磁場の空間的均一性も高く、分解能の向上が期待できる。本研究では、低コストで簡易なデスクトップ型NMRの実現を目指して、HTS-SQUIDマグネトメータ、静磁場用およびパルス磁場印加用の常温コイルを用いて低磁場SQUID-NMRシステムを試作した。本装置を用いて、純水サンプルに静磁場30μT~100μT、分極磁場2.2 mTを印加し、リフトオフ1 mmとして、プロトンのNMR信号をSQUIDで計測し、NMRスペクトルを取得した。この結果、静磁場強度に対応するラーモア周波数(約1200 Hz~4200 Hz)付近でプロトンのNMRスペクトルを計測することができた。NMR信号の線幅はラーモア周波数fに比例しており、近似線δv=0.00069f+0.35が得られた。この式において、右辺第二項の自然線幅0.35 Hzは本システムによるプロトンの最小分解能を示す。また、線幅に関しては1200 Hzにおける信号線幅1.2 Hzと比較的よい値が得られ、低磁場SQUID-NMRが高い周波数分解能を持っていることが示された。