材料プロセス/諸特性では4件の報告があった。(当初5件が予定されていたが、1 件がキャンセルとなった。)
九工大・河合らは、種々の条件でアニールして酸素量を調整した Bi-2223 単結晶につ いて、臨界磁場や臨界電流の変化を報告した。線材高性能化等の実用面からも基礎的なデー タの蓄積と、それに基づく線材特性の理解が必要とされる。今後も、基礎的研究が着実に進められることを期待する。
産総研・馬渡は、テープ線材を積層した状態における交流損失について計算で解析し た結果を報告した。密に積層した状態では、シールディング効果もあって、基板の磁性による損失の影響は小さくなると報告した。
京大・菅野らは、ハステロイ基板コーテッドコンダクターテープ線材の疲労サイクル 試験結果について報告した。 半田により銅と複合化した線材では、高応力の破壊ではハステロイ基板側から破断に至るのに対し、 低応力の場合には、銅側が加工硬化して脆性的に破断することから線材の破断に至る。 何れにしても、線材の疲労強度は 800 MPa 程度と十分に高い。
九工大・姫木らは、IBAD/CVD 法 YBCO テープについて超伝導層厚さと特性の関係を報告した。CVD 法テープでは、PLD 法の場合に比べ、超伝導層厚さを増していったときの特性低下の傾向は緩やかである。 しかしながら、臨界電流密度の絶対値は PLD 法の場合に比べて小さい。 CVD 法テープの特性が向上していった場合に、厚さと特性の関係がどのようになるの か、今後の進展に興味が持たれる。
羽生智 (フジクラ):「大型 IBAD 装置による IBAD-MgO の検討」 IBAD-MgO (4 回対称) は 45°入射で 100 m/h の線速、IBAD-MgO (3 回対称) は 55°入射 で 40 m/h の線速で作製した。 IBAD-MgO (4回対称) では、面内配向 (Δφ) が 10-15°となり、キャップ層の CeO2 で 4-5°の高面内配向膜が得られている。 これらの膜では、Ic=550 A/cm が得られている。
五十嵐光則 (フジクラ):「PLD 法による GdBCO 線材の高速成膜」 GdBCO 成膜の高速化のために、レーザー周波数を変えて成膜した。 その結果、 成膜レートは上がる。 さらに加熱方法で異なる特性となった。 接触加熱型では、a 軸配向膜が増えた。それを改善するためには、レーザーのスキャン方法を変更した。一方、ホットウォール型では a 軸配向膜の混入は少なくなった。
柿本一臣 (フジクラ):「ホットウォール加熱型 PLD 装置による Gd123 厚膜化」 Gd123 膜の加熱方式を接触加熱方式とホットウォール加熱方式を選び、比較検 討を行った。その結果、接触加熱型は膜厚の薄いところで高い臨界電流密度を示すが、膜厚増加による臨界電流密度の低下も大きい。一方、ホットウォール 加熱型は、臨界電流密度は若干低いが、膜厚の厚いところまで臨界電流密度が低下せず、最終的に高い臨界電流値を得ることができる。
福島弘之 (超電導工学研究所):「高速 IBAD-MgO 基板の開発 (2) - LMO 層成膜の高速化-」 福島らは GZO/IBAD-MgO/LMO/CeO2 構造の LMO の成膜条件最適化を行っている。基板温度 720 ℃で LMO は (100) 配向が強くなり、それ以上では劣化している。この温度を得るため、線速 20m/h では 830 ℃、30 m/h では 890 ℃、50 m/h では 960 ℃ で高面内配向度の膜が得られた。さらに、準 DC スパッタリング法では 75 m/h の線速が可能となる見通しが得られている。
筑本知子 (超電導工学研究所):「In-plume PLD 法による高 Ic-GdBCO 長尺線材の 高速成膜」 高 Ic-GdBCO 長尺線材の高速成膜のために、プルーム中蒸着、BaZrO3 の添加、 MPMT (マルチプルームマルチターン) で線材作製を行った。その結果、3 T の磁場中で、5μm まで Ic が直線的に増加する結果が得られた。この膜の厚さから臨界電流密度を計算すると 1.4MA/cm2 ほどとなる。この低い Jc の理由は膜が Baリッチ、Cu-poor となっていることが原因と推測している。
吉積正晃 (超電導工学研究所):「高速 IBAD-MgO 基板の開発 (1) -MgO 層の高速・長尺成膜-」 これまで使用してきた小型イオンがんに対して、3 倍大きい、6 x 66 cm2 のイオンガンを 2 台装備した大型装置を開発し、配向度 19 度を持つ MgO を 68.4 m/h の速度で成膜できることを証明した。
花田康 (フジクラ):「IBAD-MgO 上での中間層の作製」 IBAD-GZO よりも高速面内配向が望める IBAD-MgO を比較検討した。 IBAD-MgO では、イオンの入射角 45°で面内配向させる。 MgO の厚み、100 nm で面内配向 3°台となり、CeO2 膜は 400 nm 程度で済むことから、高速化が期待できる結果となった。 本発表では、10 m 長であるが、CeO2 層 を 60 m/h で作製でき、Ic 250 A/cm 以上を達成できることを示した。
山口高史 (住友電工):「フッ素フリー MOD 法に適した薄膜超電導線材用中間層の開発」 配向金属基板上に CeO2/YSZ/CeO2 をエピタキシャル成長させ、その基板を熱処理することにより、表面を改質させ、その上に成長させた Y123 膜の特性との相関を調べた。 熱処理時の酸素分圧が高い (20 %) と、基板の酸化が進み、特性がよくないが、酸素分圧を100 ppm とすれば、Y123 の XRD 強度が強くなり、高度に c-軸配向する膜が得られることを示した。
中西達尚 (昭和電線):「RF-sputtering 法による RE-123 系線材用 CeO2 中間層の開発」 RF-sputtering 法での CeO2 膜の作製について報告した。 作製条件は 620-650 ℃、 圧力 6 mTorr。GZO が 14°の面内配高度であったが、90 分 (1.3μm) の CeO2 膜作製で 4°まで面内配向度が向上することを示した。
MATSEKH Arkadiy (九州大学):「Estimation of in-plane thermal diffusivity in YBCO bi-crystalline thin film by use of the low temperature laser scanning microscopy」 熱拡散を調べるために、二種類の (001)- 傾斜の 6°バイクリスタル STO 基板上に TFA-MOD 法で作製された 150 nm と 400 nm 厚の Y123 膜を1 mm 長さ、200μm 幅のブリッ ジに加工し、レーザーのスキャンを行った。 解析の結果、熱拡散係数は主に基板からの寄与が大きく、k=1.95x10-5m2/s であることがわかった。
UGLETTI Davide (NIMS):「Thermal degradation of critical current in YBCO coated conductors」 6000円/m でsuperpower 社から購入した Ag と Cu でコートされたハステロイ基材上 Y123 膜と Ag コートされたハステロイ基材上 Y123 膜について熱による劣化を調べた。 Cu コートされたものでは、400 ℃の熱処理で劣化が著しい (5 分で Ic がゼロ) が、Ag コートだけでは、450 ℃ の熱処理でも劣化が少なく、Cu コートされたものの 300 ℃ 熱処理と同じくらい耐性があった。
王旭東(早稲田大学):「YBCO 超電導ケーブルの通電・伝熱特性評価用計算機シミュレーション」 これまで行ってきたシミュレーションよりも実ケーブルに近い構成の YBCO 超電導ケーブルを想定し、ケーブルの最外層を PPLP 絶縁体とし、その外側に液体窒素が触れているものとして計算を行っていた。
【2P-p19】 早大の植田らは、「高温超電導線材の放射化特性」と題して発表した。Y-123 ならびに Bi-2223 線材について、タンデム加速器からの 2 MeV の中性子照射を常温で行った(吸収線量=2 Gy)。照射後の Ge スペクトルから、Bi-2223 線材では安定化銀が放射化して110Ag が生成され、また Y-123 線材では基板の Ni-W から57Co, 58Co, 65Ni、185W の生成が、安定化層の銀から110Ag の生成が、また銅から65Ni の生成が推定された、としている。
【2P-p20】 九工大の磯部らは、「重イオン照射が DyBCO コート線材の臨界電流特性に与える影響」と題して発表した。DyBCO コートテープに Au または Ni イオン照射を行い、Jc や n 値を評価した。Au イオン照射の場合、高磁界で Jc が大幅に向上しており、円柱状欠陥が有効なピンであるとしている。一方、Ni イオン照射では Au イオン照射ほどの向上は見られなかったが、これは導入された欠陥のサイズが小さいため、としている。また、Au イオン照射では n 値も増大する、と述べた。
【2P-p21】九大の井上らは、「長尺 GdBCO 線材の臨界電流特性の温度、磁界、磁界印加角度依存性」と題して発表した。Jc (77 K, 65 K) の磁界方位による異方性は、高磁界では大きいものの低磁界では小さい、としている。最も低くなる垂直磁界中の Jc は、20 K まで冷却すると 27 T の高磁界でも 2 MA/cm2 と高く、また平行磁界では温度を下げると大幅に Jc が向上し、40 K における Jc-B 特性は 20 K で垂直磁界中の特性よりも全磁界領域で勝っている、としている。
【2P-p22】九州大の木須らは、「低傾角 YBCO バイクリスタル粒界の磁界誘起クロスオーバ領域における粒間 Jc の検出」と題しては発表した。傾角 6 度の YBCO バイクリスタル薄膜について、μm オーダの高分解能計測を可能とするレーザ走査顕微法を用いて、粒界での局所的な電流−電圧特性を評価し、粒内の特性との定量的比較を行った。その結果、低磁界領域 (B=0.3T) では粒内 Jc は粒間 Jc よりも大きな値をとるが、高磁界領域 (B=5.0T) では両者の関係が逆転する、と述べた。
このセッションの 5 件は高温超電導テープ線材における遮蔽電流の時間変化と交流損失特性の評価に関するもので、いずれも若手研究者の活発な発表と討議が行われた。
2P-p24 は線材長手方向に分布した遮蔽電流の時間変化 (0.5、1000 秒後)、2P-p25 は短尺線材 7 サンプルのレーザー光非破壊層間剥離評価試験と過電流パルス通電による特性劣化試験結果、2P-p26 は銀拡散接合やはんだ接合並びに欠陥部位の補修ピース接合技術が交流応用に有効なること、2P-p27 はパンケーキコイルの複数の超伝導ストリップを等間隔に束ねた場合に発生する垂直磁場交流損失の評価と積層数の影響、2P-p28は大電流転位並列導体に不均一な外部磁界を印加した場合に発生する付加的交流損失の評価、をそれぞれ明らかにした。
本セッションにおいては急速に開発が進んでいる RE123 系酸化物超電導線材について、従来見過ごされてきた基礎的な物性に関するいくつかの興味深い報告があった。
応科研の長村らは、Spring8 放射光を用いて RE 系線材の残留歪を精密に測定し Nb3S n 等に見られる真性歪効果からの乖離を示唆した。
東大の下山らは低イオン半径 RE 元素においても RE が Ba サイトに置換した固溶組成が存在することを示しキャリアドープ状態最適化の可能性があることを示した。
九工大の Paolo らは、簡単な工夫で Y123 膜中に Y2O3 ナノ分散構造を形成して高ピン力が実現できることを示し、産総研の山崎らは Y123 膜中の各種のナノ分散構造の大きさがピン力の角度依存性に直接的影響を及ぼしていることを見出した。
いずれも 20 年近い RE123 系膜の研究において原因がわからなかった現象に抜本的解決を与えようとするものであり、興味深く活発な議論が行なわれた。
本セッションは RE123 超電導体の機械的特性に関するものであり、 コーテッドコンダクタの一軸機械的歪下での超電導特性に関して 2 件、バルク体の機械的特性向上1件の合計3件の報告がなされた。
早大川井らは、IBAD/MOCVD 線材に 0.5 % の繰り返し引っ張り歪を 6800 回印加し、Ic の劣化がないことを確認した。繰り返しひずみに 対する寿命は超電導機器(SMES)の運用条件に依存するものの、 コーテッドコンダクタが変動応力下での応用に十分適用可能である ことを示すものである。また、弘前大村上らは、Dy123 バルクの 破壊強度特性改善のために、Ag 添加による微小き裂進展抑制について 検討を行い、効果を確認した。
RE123 実用化のため今後も機械的特性評価・改善の研究が 積み上げられていくことを期待する。
13 日午前の「線材特性」のセッションでは、6件の発表があった。
超電導工研の三浦らは、TFA-MOD 法で作製した各種 (RE) BCO テープの Jc の磁界角度依存性と断面透過電顕観察結果について報告した。Y の一部を Gd や Sm に置換することで自己磁界中 Jc が向上し、さらに、BZO のナノ粒子を微細分散させることで角度依存性がフラットになるとのことc萇で、テープ線材実用化の上で有益な情報である。関連して、東北大金研の淡路らは、上記の超電導工研製 ZrO ドープ (Y0.77Gd0.23)BCO テープ等の電気抵抗や Jc の磁界角度依存性を測定し、フラットな磁界依存性は系の異方性の低減に起因するのではなく、何らかのc軸相関ピンの効果であることを報告した。鹿児島大学の土井らは、配向 Cu テープにステンレスをクラッドして機械強度を向上させ、Ni メッキ層を形成した基板に、バッファ層と YBCO 層を成膜して高い Jc を得ており、低コスト素材を用いたテープ作製法として注目される。超電導工研の町らは、RE 系テープ線材の交流損失低減のためのレーザースクライビング法について、レーザー出力を低下させるとともにウェットエッチと併用することで、ドロスなしのシャープなエッジを得ることに成功している。
その他、MOD 法による低コストYBCO 線材の開発についての報告が2件(昭和電線ケーブルシステム等、および、住友電工)あった。
本セッションは、プログラムに記載された4件に加えて、午前中にキャンセルとなった
1A-a06:DI-BSCCO テープ線材の臨界電流の応力/ひずみ特性:発表者 佐藤雅史(岩手大)
を追加した。鉄道の人身事故の影響で会場への到着が遅れ、午前中の発表時間に間に合わなかったためである。本人に責がないため、淵野委員長の決定で Bi 系セッションでの報告となった。以下、セッション内容の概要を報告する。
素線テープ、及び、テープ面を両側から銅合金、ステンレス鋼で補強した積層材の Jc の歪に対する挙動を調査した。補強材と素線テープは半田で接合されている。歪を受けても回復する可逆歪を99%と定義し、補強材の違いによる可逆歪を明らかにした。残留歪について複合則による見積もりと、中性子回折による評価を比較した。
加圧焼結法による Bi-2223 テープを銅合金、ステンレスで補強材した場合の臨界電流密度、磁場依存性を温度、磁場を変化させて測定。全長に渡って、補強プロセスによる劣化は観察されず、素線本来のばらつきの範囲であるとした。銅合金による補強を行った場合にのみ、若干のJc向上効果が観察されており、原因は調査中とのことであった。
この研究グループは、Bi-2223 テープ線材の交流損失を低減するため、フィラメント間にバリアを挟む方法を検討している。今回、バリア材を従来の Ca2CuO3 から SrZrO3 に変更した結果を報告。その結果、ツイストピッチを10 mm 以下にすることで初めて商用周波数を上回る 300 Hz まで損失低減効果が認められる結果を得た。残念ながら、ツイストピッチが10 mm を超えると Jc が低下する問題を生じており、その原因は強加工でフィラメントが破れてしまったことによると推察した。Bi 系線材の交流損失低減に向けた一定の成果といえる。
Y系薄膜試料に多芯フィラメントを模擬した10 本の細線上の電流路を描き、そこに、人工的なブリッジングや断線箇所を導入した。これに並列に電流を流しながら、微小なホールセンサを平面状で走査し、表面磁場のマッピング結果から電流分布を可視化した。この結果、この方法により原理的に線材の電流分布の観察が可能であることが分かった。分解能をどこまで向上できるかが課題に思う。
DI-BSCCO テープ材(素線)の臨界電流密度の応力/ひずみ特性を 77 K 及び 4.2 K で詳細に検討。0.2〜0.25 % をこの線材の耐ひずみ限界と結論した。貴重な報告である。
Bi系線材 (2) のセッションでは、6 件の発表があり、熱伝導率や圧延の影響、残留磁界分布測定など、興味深い発表が幾つかあった。中でも豊橋技科大の稲田らのグループによる走査ホール素子顕微鏡を用いたテープ線材の残留磁界分布測定は、いわゆる非破壊検査であり、製品の品質管理にとって非常に有益な方法に思われた。
その手法を用いて豊橋技科大の稲田は、Bi2223 バリア線材の残留磁界分布を評価した。今回残留磁界と通電試験による全体の Ic 分布とを比較し、概ね良好な相関があることを確認した。
同じく豊橋技科大の荒木は、同じ手法を用いて Bi2223 多芯ツイスト線の残留分布を測定した。ツイストピッチを 6 mm まで小さくすると、明らかに断続的な磁場分布が現れて、それがIcの局所的な劣化と対応することが示された。
また豊橋技科大の來原は Bi2223 ツイスト線のフィラメント形状と Jc に及ぼす圧延条件の影響を調べた。同じ圧下率でもツイストピッチの違いによって、テープ幅広面と長手方向への変形の仕方が異なってくる。ツイストされている場合や、圧下率が大きくなる場合には、圧延によって形状が幅広になりやすい傾向があることが示された。
豊橋技科大の中村からは、Bi2223 線材 Jc へのポストアニールの影響が発表された。いくつかの熱処理パターンの中で、高いJcが得られるものは、どれも 840 ℃から82 0℃への除冷と 820 ℃での保持の組み合わせを含むものであった。
また豊橋技科大の稲田からもう一件、母材抵抗率の向上による Bi2223 多芯ツイスト線の交流損への影響について報告があった。今回母材に銀金合金を使用した。従来の酸化物バリア線に比べると、加工性の確保の点では大きなメリットになるだろうと思われる。
その他に DI-BSCCO の熱伝導率について、岩手大の内藤より報告があった。線材の熱伝導率は、ほぼ母材の熱伝導率で決まっているとの我々の直感に沿う実験結果ではあるが、実際の設計の際には、こうした生の実験データは非常に貴重になるだろうと思われた。
このセッションでは、バルク超伝導体の浮上や経年変化、Pt-Rh 線を埋め込んだ時の熱伝導率の変化などが発表された。鉄道総研の富田らは、YBCO バルク体を科学未来館で 6 年間展示し、その試料の磁束トラップの経年変化を詳細に報告した。真空封入された比較的良い環境に保存されていても、経年変化が起きることが実証し、またその原因は試料作成時の欠陥に依存することを明らかにした。超伝導バルク体を用いたデモ機などを試作している我々にも参考になる結果であった。
本セッションでは,バルクに関して2件,薄膜作製に関して2件の4件の報告が合った.バルク応用に関しては,藤本(鉄道総研)らは,熱伝導の改善と機械特性の向上を狙った,Pt-Rh 線を複合した Dy123 バルク合成に関して報告した. Pt 線では溶融成長温度近傍で酸化して金属 Pt が残らなかったが,融点の高い Pt-Rh 線を使用する事によって,金属線のまま組織に分散した Tc ≈ 90 K のバルク作製に成功している。ただし,Pt-Rh 線周辺は,Pt の濃度が高い事により多くの不純物が残留する傾向が見られている。同じく藤本(鉄道総研)らは,一般的な溶融成長熱処理において,最初の溶融を酸素中で行うことによって,RE123 バルク内部に一般的に見られるボイド(空隙)が 1 % 以下に低減できる事を示し,その超伝導特性と機械特性について報告した。結果として,緻密材では,機械的な強度は約 1.2 倍に向上し,トラップ磁場は77.3 K において 1.2 T となると報告した。次に薄膜作製では,金井(高知工科大)らは,Nd:YAG レーザーパルスレーザー成膜法(Nd:YAG―PLD 法)を用いた,(Eu,Er)123 膜作製について報告した。 SrTiO3 単結晶基板上では,良好な4回対称の面内配向性を有する膜の作製に成功した。ただし,Tc ≈ 85Kと低いため,さらなる条件の最適化が必要である。次に,諸橋(山口大)らは,超伝導トンネル接合用Nb多層膜の作製のため,ボックス型6元スパッタ装置の開発と,これを用いたNb膜の作製について報告した。マグネトロンスパッタ用の磁石をボックスの4面に配置し,これを回転させることで,省スペースで4元のスパッタが可能となり,原理的には従来型と比べて10 倍の効率が見込まれるとのことであc萇る。試作として作製したNb膜では,準粒子トンネル効率の向上がみられ,将来的に良質の超伝導トンネル接合作製に期待が持たれる。
この鉄系高温超伝導セッションは本学会では初めて設けられたものである。招待講演、一般講演が各1件のみであったが、最近の注目テーマのため聴衆は約120名を数えた。産総研超伝導材料グループの伊豫による招待講演では、鉄系高温超伝導体のこれまでの経緯、構造的な分類、超伝導キャリア注入の手法、局所構造制御の重要性がわかりやすく紹介された。Tc は REFeAsO 系で55-56 Kに達していること、類縁超伝導体が増え続けていることが示され、今後も目が離せない新規物質群であることがよくわかった。米国国立強磁場研の山本らは REFeAsO 系多結晶は今のところ granular な臨界電流特性を示すこと、Ba(Fe,Co)2As2 単結晶では可逆領域が狭く、Fp の磁場依存性が NbTi などに似ていることを指摘した。
本ポスターセッションでは、6件の発表が活発に行われた。順不同に概要を述べる。
伴野(NIMS)らは、急熱急冷法により作製した Nb(Al) 過飽和固溶体線材を Cu 管の中に複数本束ね加工伸線する「リスタック法」により低損失の極細多芯Nb3Al線材を作製し、ITER
用 RRP Nb3Sn線材と比べてその有効性を示した。また、同線材の曲げ試験では、約 0.6 % 曲げひずみまで内部クラックが発生しなかった。
荻原・村瀬(岡山大)らは、補強材配置の異なるNb3Sn超電導線の3次元ひずみ解析を行い、Cu-Nb による外部補強線材のひずみが最も低くなることを示した。岩谷・井上(徳島大)らは、Nb と Ag-Sn 合金の拡散により Nb3Sn 線材を作製し、Mg の添加がブロンズ法 Nb3Sn 線材と同等以上の特性を持つことを示した。
菱沼(NIFS) らは、ジェットミルにより細粒化した Cu-Ga 化合物粉末を用いて V3Ga 線材を作製し、超電導特性と微細組織との関係を詳しく調べた。
これらの発表は、いずれも紹介した研究者らによりこれまで系統的に進められてきており、さらに今後の成果が期待される。
A15 型線材(2) のセッションでとりわけ興味を引いたのは、「Ti2Sn3 化合物と新しいブロンズ法 Nb3Sn 線材」という報告であった。Nb3Sn 線材では 10 年程前から、RRP 法PIT 法等の新しい線材製造法が提案され、飛躍的に特性向上が図られてきたことは周知の事実である。しかも、残念ながら、これらの新製法の開発は、いずれも欧米で行われたものであった。しかし、大量生産技術としてこれらの新製法を考えると、ブロンズ法に比べ信頼性に欠けるという欠点があった。この報告では、ブロンズ法に Ti2Sn3 粉末のロッドを組み込むことで、Sn 濃度不足を補い、線材中にボイドが形成される欠点や、大量生産に適さない、あるいは信頼性に欠けるという欠点をみごとに克服しており、超電導特性も飛躍的に向上しており、今度の発展が十分に期待できる。このような有望な新製法が日本から提案された事実は、材料開発の国の復活との強い印象を受けた。
A15 線材 (3)は当初 4 件の発表が予定されていたが,1 件キャンセルとなったため,合計 3 件であった。飯島 (NIMS) は RHQT法 Nb3Al 単芯線について減面加工を施した場合の加工度と超伝導特性 (Tc, Jc) との関係を調べた。Tc は加工度 50 % 程度で極大値をとるが Jc は 70 % 程度まで増加し続ける。Jc と Tc との間には正の相関があることが示された。また,急冷と超伝導特性との関係が明らかになってきたと述べた。
竹中(上智大)は次世代加速器用線材として Ta マトリクス RHQT 法 Nb3Al 線材の開発について発表した。Ta マトリクスを用いることで non-Cu Jc が多少低いものの,Nb マトリクスの場合に問題となる低磁場不安定性(フラックスジャンプ)を抑制でき,機械特性は変わらないと報告した。
竹内(NIMS)は Nb3Al と NbTi からなる 15T 超伝導マグネットの製作と試運転について報告した。もともと 30 mmボア14T マグネットの Nb3Sn コイルを Nb3Al に置き換える試みである。8.1T-NbTi コイルと 6.9T-Nb3Al コイルは直列に接続され,1電源で運転される。Nb3Al 線材は Nb マトリクスのため,低磁場不安定性が心配されたが,それによるクエンチは発生せず,マグネットは1回のトレーニングを経て定格 (15 T/295 A) に到達した。古い Nb3Sn コイルを Nb3Al に置き換えることで,ボア径の拡大 (30 -> 40) と磁場向上 (14T -> 15T) を同時に実現したという本研究は,Nb3Al の有効性を示した価値ある結果といえる。
日大の渡辺らは、MgB2 線材の熱処理を従来のAr雰囲気から Ar ガスフローに変更した結果、MgB2 の生成量の増加と Jc の向上を確認した。
日大の松岡らは、Mg:B のモル比を変えた圧粉体から作製した 試料について、密度、MgO 生成量を評価した。原料の Mg に MgO が含有することに起因し、Mg 粉末の混合比に最適値が あることを見出した。
福工大の森田らは、MgB2 バルクを作製するときに存在する酸素の 影響を検討し、結晶粒間の Jc にのみ影響を及ぼすことを定量的に 示した。
本セッションでは、PIT 法による MgB2 線材に関して5件の発表があり、活発な議論がなされた。
根本ら(東海大、トクセン工業、岡山大、NIMS)は、内側を純鉄、外側を SUS304 とした2重シースを用いた PIT 法で in situ 法で SiC を添加した MgB2 線材を作製し、その特性を詳細に報告した。
山田ら(JR 東海、筑波大、NIMS)は、PIT 法で in situ 法によりエチルトルエンと SiC を添加した MgB2 テープ状線材を作製し、その特性を抵抗率、コネクティビティ、MgO 生成の観点から考察し、エチルトルエン添加がコネクティビティを向上させる効果があることを示した。
和田ら(東海大、NIMS)は、B 粉末を充填した Mg パイプを Fe パイプに充填して、伸線加工、熱処理することで MgB2 線材を作製した。630〜700 ℃で熱処理された試料の断面観察結果から Mg が B 粉末側に拡散して、元々 B 粉末が存在していた場所に MgB2 が生成していることが確認された。Mg が存在していた位置が線材内部で大きな空隙に成っている点は今後解決しなければならない課題であるが、4.2 K、10 T での Jc は 30,000 A/cm2 と良好であり、今後が期待される作製手法である。
戸叶ら(NIMS、東大)は、内部 Mg 拡散法により7芯の MgB2 線材を作製した。伸線加工前の単芯の構造は Ta 管の中心に Mg 棒を挿入し、Ta と Mg の間に B 粉末を充填したものとなっている。伸線―熱処理後の線材断面観察結果より、Mg が B 粉末側に拡散し、中心部に大きな空間が存在していることが確認されたものの、4.2 K、10 T での Jc は 105 A/cm2 に達している。Jc が頭打ちであったこれまでの PIT 線材の壁を打ち破る手法としての可能性を秘めており、今後の研究の進展が期待される。
望月ら(東大)は、Mg、B、MgB2 の混合比率を変えて premix-PICT 法により高密度 MgB2 バルク試料を作製し、混合比、密度、コネクティビティ、Jc について詳細な検討を行った。バルク体の相対密度、コネクティビティ、低磁場での Jc には明確な相関が見られ、(Mg+2B):MgB2=0.95:0.05 の原料混合比のときに、相対密度90 %、コネクティビティ45 %、Jc (20 K、自己磁場)=8.2×105 A/cm2を得ている。
ここでは,6 件の発表があった。大橋ら(九大・東大)は,MgB2 多結晶バルク体の 結晶粒界を SEM-EBSD 法で解析して,各結晶方向を評価し,各結晶の方位はランダ ムであることを見つけた。
花房ら (東大) は,作製した MgB2 バルク・線材試料の結 晶子サイズについて XRD, SEM, Tc, Jc を使って評価し,小さな粒の結晶粒界がピン止めサイトとしてすべては機能していないことを指摘した。
松本ら (NIMS) はプリカーサー・アニール法によって作製した MgB2 薄膜に SiC およびエチルトルエンに C 添加を試みたが,電流経路阻害因子として働き Jc 等は低下した。
戸町ら (九大・三菱重工・日立・NIMS )は,CuNi シース MgB2 単芯線を用いて液体水素用液面計としての評価をした。昇温降温で液面にヒステリシスが生じる,消費電力が 大きいことなどが課題である。
川野ら(九大・京大・日立)は MgB2 線を固定子巻線に使用した場合の交流損失を解析し,スロット幅を狭くすると損失が増大する などの結果を発表した。
本セッションでは7件の発表があり,実機の運転報告(1件),ケーブルジョイント技術(1件),冷却技術(3件),交流損失低減に関する技術(2件)と多岐にわたる超電導ケーブルの実用化に必要な技術に関する研究成果が発表され,活発な議論が行われた。
中部大学を中心とした研究グループは,冷却技術に関する研究に注力しており,中でも1P-p25は断熱二重管の内管に亜鉛メッキを施し,3層の多層断熱材を併用することにより熱輻射を大幅に低減できることを実験により明らかにした。
また,京都大学の研究グループは,交流損失が少ないケーブル構造に関する研究を行い,線材の可撓性(1P-p28)や細線化(1P-p29)が交流損失低減に有効であることを有限要素法による数値解析を用いて明らかにした。
送電ケーブルセッション (2) では,5 件の報告があった。
住友電工と東京電力は線材の超電導フィラメントにツイストを施した低交流損失型の Bi2223 線材を開発し,1 W/m以下を得た。また,高臨界電流型の線材と組合わせると,大容量かつ低損失のケーブルが可能であることを示した(1C-p01)。
早大,古河電工,中部電力,ISTEC は YBCO 線材を用いた10 m 級超電導ケーブルの過電流試験結果と数値解析結果を比較し,銅の温度上昇などを考慮すると,電流波形,位相などで良好な結果を得た(1C-p02)。
文科省ではらせん状に巻いた送電ケーブルのインダクタンスが各層の巻線方向により変化する場合があることなどを解析的に示した(1C-p03)。
中部大学では,20m 級の送電実験システムの実験結果を踏まえて GW クラスの大容量送電を次期計画として,その実現のために電流リードや循環動力の低減を図る200m 級の実験装置を計画している(1C-p04)。
中部大学,JFE スチールは直流送電の実用化を目指した外管 150 A,内管 80 A の比較的口径の大きな断熱二重配管の輻射熱を 0.5 W/m まで低減できることを実験で示した(1C-p05)。
電力応用 (1) では,SMES 関連が 2 件,限流器が 1 件,低温スイッチが 2 件,超伝導モータが 1 件と広範囲になった。
SMES 関連は電磁力平衡コイルの SMES 適用を目指しており,今後実機検討に向けての改良点がクリアになってきたようである。
限流器に関しては三相限流リアクトルを応用したタイプの提案で,発表の動作シミュレーションに基づいた小型装置での試験が待たれる.スイッチでは,1 件が液体窒素中の銅粒子の誘電泳動を利用,1 件が電力変換用に HTS を誘導型で利用,と全く原理の違うものであったが,共に大電流化を望みたい。
超伝導モータに関しては,アクリル材を用いて教育用にモータ構造を可視化した点がユニークであり,超伝導技術のデモとしてオープンキャンパスで使用する予定との事で,結果が楽しみである。
1P-p19 超電導変圧器用 1kA 級大電流モデルコイルの開発
Y 系線材を多層並列した巻線の製作試験結果の報告。次世代超電導線の実用的機器応用の一環として多くの参加者の興味を引いていた。均流化や交流損失に関する知見は極めて価値が高い。
1P-p20 低交流損失 Bi2223 超電導線を適用した巻線の特性評価
こちらは鉄道車両用主変圧器を想定した Bi 系線材の巻線の製作試験結果。課題とされていた Bi 系線材の交流損失の低減も進み,巻線技術も成熟しつつある。Bi
も Y もそれぞれの特長を活かした応用で発展していって欲しい。
1P-p21 ミアンダ形金保護膜を持つ超電導薄膜限流素子の検討
Y 系超電導薄膜の上にミアンダ形に金膜を付けてノーマル転移後の抵抗を稼ぐユニークな方法。電界集中の問題があるが,数値解析により最適設計を模索している。今後の進展に期待したい。
1P-p22 高温超電導コイルとバルク超電導磁気シールド材を併用した界磁を有する同期モータの特性解析
超電導バルクを回転させ,遮へい効果により回転磁界を得る方式の全超電導モータの検討。モデル機の製作試験を検討されているとのことで,その報告を楽しみにしたい。
加速器/周辺技術 (1) のセッションでは、ILC (International Linear Collider) の開発を推進するために実施されている、超伝導加速空洞試験設備 (STF) 用クライオモジュールの開発概要と冷凍システムの設計・冷却試験に関し KEK から3件の報告があった。ST F開発計画とビーム実験の関連、空洞異材継ぎ手の信頼性確保手法、冷凍システムの温度制御手法と冷却速度設定基準などに関する質疑があった。さらに、KEKB 超伝導クラブ空洞の開発、運転状況、低温システムの特性に関しKEK から 2 件の報告があった。空洞内壁洗浄用の高圧リンスの手法と冷却配管の設計基準に関する質疑があった。
加速器用超伝導磁石について2件の発表があった。1つは、J-PARC ニュートリノビーム用超伝導磁石の全実機(予備機4台を含む 32 台)の縦試験(定格電流通電試験、クエンチ保護ヒータ性能確認試験、等)の結果の報告、来年1月からの超伝導磁石システムの試運転に向けた進捗報告であった(KEK,三菱電機)。KEK,NIMS から、高磁場 Nb3Al コイルについて、磁石設計、開発状況について報告があった。2010 年の磁石製作に向けて、冷却時の熱収縮でプリストレスを加える A lシェル構造を採用した新しい試みである。
周辺技術として、SQUID を用いた RI ビーム電流モニタの実用化(理化学研究所)、コイル模擬装置による wire motion 観測結果(KEK、東洋紡)、超伝導コイルの永久電流スイッチに並列接続する多並列 MOSFET システム(JR東海)についての3件の発表があった。それぞれ熱のこもった報告に対して活発な議論が行われた。
JT-60SA は,JT-60 のトカマク本体を超伝導化する計画であり,日本と EU の共同プロジェクトとして進められている。
まず,原子力機構の吉田から,JT-60SA の超伝導導体製作とコイルの最適化設計について報告があり,トロイダル磁場 (TF) コイルの最大経験磁界を 6.5 T から 5.65 T に下げ,放射線シールドを厚くすることによって,NbTi 素線の重量を 91.5 トンから 33.4 トンに,コイル容器構造材を 700 トンから 290 トンに減らすことに成功したこと,中心ソレノイド (CS) コイルについては TF コイルが薄くなったことにより磁束を10 % 増やすことが可能となったこと,また,平衡磁場 (EF) コイルは運転領域の見直しによりコイル数を7個から6個に減らし,導体重量を71 % に削減することに成功したこと等が報告された。導体製造は 2008 年4月より開始されており,原子力機構内に導体複合化施設の建設も始まっている。
次に,原子力機構の土屋から CS コイルの支持構造設計について,熱収縮差と電磁力および焼きばめ効果を考慮した構造解析を行い,許容値以内の応力に収まることが報告された。今後,ジョイント部の詳細設計が予定されている。
続いて,原子力機構の村上から CS コイルに円板状のピックアップコイルを用いたクエンチ検出方法について報告があり,プラズマ電流,プラズマ真空容器,安定化コイルを多数の電流要素に模擬した計算を行い,誤差電圧が 0.04 V 以下に収まる見通しを得たとの報告があった。
JT-60SA に関する発表に続いて,鹿児島大の徳田からポインチングベクトル法による非接触型クエンチ監視システムの実験結果について,日立の草加から電圧波形と回路過渡解析結果との比較によって常伝導発生位置を推定する方法について発表があった。新しい取組みとして今後の研究の進展が期待される。
「LHD 型核融合エネルギー炉を想定した大電流 Y 系 HTS 導体の開発」において、最高磁場13T−100kA 級 HTS 導体を目標として、10kA 級 Y 系短尺導体の臨海電流値および安定性マージンの測定結果の報告があった。
「LHD 型核融合炉用ヘリカルコイルへの React&Wind 法の適用可能性の検討」において、A15 系超伝導線材を用いて、React&Wind 法で巻線部を設計できることを示された。
「核融合装置用間接冷却型超伝導マグネットの設計研究」において、ヘリカルコイル用に検討された間接冷却型巻線をトカマク型装置への適用した場合の設計検討の報告があった。
「超伝導マグネット材料の中性子照射効果(その2)」において、NbTi、Nb3Sn、Nb3Al 線材に 1.78x1021n/m2 の14MeV 中性子照射し、臨海電流値の測定結果の報告があった。
ITER 計画の進捗状況、構造物製作のための構造規格の策定及び Nb3Sn 素線の歪効果などについて合計 6件の発表が原子力研究機構、大同工大、物質・材料研究機構等からなされた。
ITER では SULTAN 試験装置で行った TF コイル用導体の短尺試験において特性劣化が観測されたが、その原因が試験サンプル製作時及び通電実験時に素線に過度の歪が加わったためであることが明らかとなった。ケーブルイン コンジット導体内の Nb3Sn 素線に加わっている残留歪みを正確に評価する必要性が改めて認識され、新たな手法として中性子回折による測定方法が提案され実施されている。また Nb3Sn 素線内の曲歪み印加時のフィラメントの断面観察も行われ、歪による特性劣化の現象解明が試みられている。
本 HTS 応用セッションでは 5 件の発表があった。HTS 材料の開発も長期(20 年以上)になり、応用開発が重要になりつつある。そのなかで、木吉氏の「超伝導磁気レンズを使用した強磁場発生装置」は、小型な装置ではあるが、7 T の NbTi コイルのボアーに HTS バルク材を挿入れるだけで、15 T の磁界が発生できる装置の可能性を示した。大型化にするには問題点は多そうであるが、小型な装置であれば実現性は高いと思われる。電流リードは HTS の有力な応用例になりつつあり、古瀬氏からさらなる最適化が紹介された。一方、電流を通電する HTS コイルの開発は、発生磁界が 1 T にも及ばない状況であり苦戦が続いている。
本セッションでは、REBCO 線材の応用に関して、5件の発表があった。
まず、高磁場コイルの設計方針に関して2件の発表があった。線材の臨界電流密度とは別にコイル巻線の応力歪み特性から線材の最大電流密度を与えることは有効であり、YBCO 線材を用いると機械的強度が高いことに対応して、高磁場を発生するのにコンパクトなコイル設計が可能であることが示された。一方、線材の電流輸送特性の温度、磁場、磁場印加角度、機械的ひずみに対する依存性などを正確に考慮して詳細な解析を行った結果、40 Tの中心磁場が達成可能であることも示された。しかしながら、両者の発表ともに現状の解析は定常状態に限られており、クエンチ保護など過渡的な現象を考慮すると、コイル設計はもっと厳しくなることも指摘された。
TFA-MOD 法によって作製された YBCO 線材を電流リードに用いる試みが2件の発表で示された。円筒型と平角型の電流リードが試作されたところ、通電実験はいずれも良好で、1200 A の設計値を満足するとともに、熱侵入量が銅製電流リードの場合と比べて5分の1程度になると予測できた。今後、Bi-2223 線材を用いた HTS 電流リードと比べたコスト比較が重要と考えられる。
HTS テープ線材の幅広面に外部磁場を印加すると磁気遮蔽効果が顕著に現れることが、YBCO 線材を積層した実験で観測された。磁気遮蔽効果は時間とともに弱まっていき、遮蔽電流の減衰に対応していると考えられる。また、積層枚数を減らしたり、線材幅を小さくしたりすると、磁気遮蔽効果が弱くなることも確認された。ただし、これらの結果については、同様の実験や解析が他の研究グループによっても行われているため、今後それらとの対比や発展について議論して頂きたい旨の指摘があった。
初日の朝 1 番目のセッション、時間通りに進行した。参加者は会場が 7 割程度埋まるような状況であった。印象に残った講演は、超伝導応用として、これまで多くの発表がなされてきた「電力」や「エネルギ分野」への応用研究から新しい分野への応用に焦点をあてた発表が多くなったことである。その中の 2 点を紹介すると、ひとつは、ナノ・バイオ技術などの微細技術の進歩とともに、地震などの揺れに影響をうける機器への対応策として、免震対策用への応用である。ここでは、永久磁石と HTS の組み合わせでこれを実現する方策をとっており、今後の研究の進捗が期待される。もう一つは、医療分野への応用であった。この分野では、これまで磁気誘導の発表がなされていたが、今回はこれに加えて、SQUID を利用した心磁図計測によりモデルマウスの心疾患がより早く検出できるとの報告がなされていた。
磁気応用 (2) のセッションでは 6 件の発表があった。発表内容は,基礎研究から産業応用,医療応用にいたるまで幅広い内容であった。
1P-p30 および 1P-p31 はともに Y 系線材を用いた浮上式鉄道用高温超電導磁石に関する報告であった。1P-p30 は鉄道総研,東芝より製作した小型レーストラックコイルの通電特性に関する報告であった。1P-p31 は鉄道総研より市販の線材の臨界電流特性に基づき実機を製作した際のコイル重量と運転温度の関係について報告された。浮上式鉄道ではコイル重量が重要なパラメータになるとの報告であった。
1P-p32,1P-p33 および 1P-p34 は高温超電導バルク材を用いた基礎実験に関する報告であった。1P-p32 は成蹊大からの報告で,着磁されたバルク材間に鉄を浮上させる実験を行い,浮上した鉄には復元力が働くことを実測した。1P-p33 は九工大からの報告で,バルク材を用いた磁気浮上輸送装置において,ピン止め浮上だけでは積載量の増減に伴い浮上高さを再調整することが困難になる点に着目し,ピン止め浮上中のバルク材にパルス着磁を行い浮上高さと剛性を制御する方法を提案した。基礎実験結果より,パルス着磁の方向と大きさを選択することで浮上力が制御できることを確認した。1P-p34 は足利工大,新潟大,岩手大からの報告で,同極対向させたバルク材によって磁極間の径方向に強磁界を発生させる基礎実験を行い,形成される磁場分布を実測した。本研究グループは,以前に異極対向させたバルク材の基礎実験も行っており,引力よりも斥力が働く場合にバルク材を支持する方が困難であったとのことである。
1P-p35 は早大,神奈川歯科大より医療応用に関する報告であった。本研究グループは,SQUID システムを用いて,視覚的刺激を与えたマウス・ラットの脳磁図を計測した。その結果,ラットに関しては脳磁図の計測に成功しているものの,マウスに関しては脳の大きさが小さいため,まだ十分な計測ができていないとのことであった。マウスで成功すれば世界初になるとのことである。
以上,磁気応用のセッションは多分野に渡る研究内容であり,それぞれの分野において今後の研究成果が大いに期待される。
岡山大学の井上らは Bi2223 超伝導コイルをサンプルとして有効電力法を用いた保護システムについて結果を報告した。そして最高到達温度約 130 K に抑えることができた。
東京工業大学の山田らはマグネットの電源として熱電素子を用いた研究を報告しており、大変興味深い。ここでは安定化について報告をおこなっていた。
九州大学の中尾らは MgB2 線材を用いたコイルの報告を行なった。これは田中らの 1B-p01 の発表と関連しており、ここでは主に温度特性について詳しく報告した。
新日鐵の手嶋らは Dy 系バルク電流リードの冷凍機冷却状態での通電特性について報告した。特に銅ブスバーとの接続が重要であることが示された。
NIFS の関口らは LHD における常伝導転位を自動的に判定するシステムの開発について報告した。その結果、いくつかについては判定できたが、さらに精度を高めるためのピックアップコイルの設置などの検討を行なっている。横浜市立大の天明らは 1 GHz を越える NMR システムを開発するにあたり、機械的な振動がシステムにどのような影響を与えるかを詳細に調べ、報告した。
NMR のセッションでは、超 1GHz NMR システムの開発を目指した、 500MHz NMR 用 Bi-2223 整列巻きコイルに関する報告 2 件、 Bi-2223 ダブルパンケーキコイルに関する報告2件、及び CuNi/NbTi 超伝導線を用いた永久電流スイッチ(PCS)に関する 報告 1 件があった。
500 MHz NMR コイルは、内層に Bi-2223 整列巻きコイル(144 A, 1.8 T)、 外層に NbTi コイル(144 A, 10.0 T)を配置、組み合わせたもので、 永久電流モードではなく、電源駆動での結果が報告された。超伝導、 常伝導シムコイルによる磁場補正、磁場安定化の方法、また、 良好な NMR スペクトルが得られたことの報告があった。
質問としては、外層の NbTi コイル影響についての質問があった。 Bi-2223 ダブルパンケーキコイルに関する報告では、コイルに 発生する遮蔽電流による磁場とそのヒステリシスについての実験結果 とその解析結果の比較がなされ、測定と計算との一致が得られることが 報告された。
PCS の報告では、PCS 巻線内の電磁力、巻き乱れと PCS のクエンチ電流 の関連についての検討結果などについて報告された。
1D-a01 液化水素用超伝導液面計の基礎研究
液化水素用液面センサーとして開発した MgB2をベースとした液面計の液面検知特性について報告があり、9
W 程度の入力量の場合に直線性が最良で、応答性および再現性も良好であった。9 W という熱入力が応用上妥当かどうかについて質疑があった。
1D-a02 1K前後でのNMR実験
1K 前後で長時間安定した温度を得るために開発した超流動渦冷凍機を使用して NMR 測定を行った結果についての報告。温度コントロールの方法についての質疑があった。
1D-a04 移動する磁気微粒子検出のためのマルチチャンネルHTS-SQUIDシステムの開発
磁束検出コイルに粒界が存在しないランプエッジ接合を用いた HTS-SQUID システムを開発し、安定動作の支障となる磁束トラップの問題を解決した。これのロボット式非破壊検査装置へ応用や、磁気ナノ微粒子を薬剤に付加して体内に注入し患部へ誘導・配送するシステムへの応用についての報告。実用化に向けての問題点について、質疑があった。
このセッションで興味深かった講演について報告する。 まずは、高エネ機構:都丸らの報告「6N 超高純度アルミニウムの開発と電気伝導・熱伝導の評価」では、 6N 超高純度アルミニウム製造の工業化が達成され、 その熱伝導も 40,000 W/m/K @6K と非常に高いことが確認された。 今後の低温工学分野での応用が期待される。
次に、筑波大:高田らの報告「λ点圧力を超える超流動中での膜沸騰遷移の様相と熱伝達の関係」では、 膜沸騰の様子をハイスピードカメラで撮影し、 その可視化された膜沸騰状態と熱伝達の関係が明らかにされた。 今後、更なる状態の解明が期待される。
熱伝達/計測(ポスター)のセッションでは4つの発表が行われた。
「ヘリウムヒートパイプのフラッディング限界評価」では、GM 冷凍機を用いたサーモサイフォンで課題となるフラッディング限界について発表があった。 実際に実験を行い、いくつかの計算手法などとの比較が議論された。
「可視化による液体 3He 沸騰熱伝達の解析」では、液体 3He の沸騰現象をシャドウグラフ法で観察した結果が報告された。 伝熱面温度、発泡点数、伝熱面から単位時間に発生する気泡数等が実測され、液体温度の昇温時と冷却時で気泡数に大きなヒステリシスが生じる観察結果等が述べられた。
「1K 以下の微少な比熱測定」では、極低温での比熱測定の基本的な注意点や、7N 高純度の銅について測定を行った結果などが発表された。 7N 高純度銅の比熱実測値と文献値に差が見られる等興味深い結果が述べられたが、その理由やメカニズムの考察等、今後さらなる研究が期待される。
「バイブレーティングリード法による Al の減衰の温度依存性」では、2N および 5N アルミニウムの 300 K〜77 K 温度領域での内部摩擦減衰率測定が報告された。 2N Alでは温度低下と共に内部摩擦も単調に減衰したが、5N Alでは 130 K 付近にピークが現れる事が報告された。 このピークは加工歪みによるものであることが知られており、実際アニール(400℃)後にはピークが小さくなっている。 より最適なアニールや条件でこれら外部要因を取り除く等、今後さらなる研究が期待される。
小型冷凍機のセッションでは、GM 冷凍機用の Pb 代替蓄冷材の開発(筑波大)、液体キセノン基礎実験システムの開発状況(KEK)、パルス管冷凍機と組み合わせた希釈冷凍機の開発状(大阪市大)、および、住友重機械の研究グループからX線天文衛星「すざく」と月探査機「かぐや」に搭載されたスターリング冷凍機についての報告があった。「すざく」検出器冷却用の冷媒であるネオンは既に枯渇したが、冷凍機自体の耐久試験は継続して行っている。それと同時に地上での耐久試験も実施しており、7 年間連続で問題なく運転できていると報告があった。宇宙空間は、真空断熱層を開放状態としているが、宇宙空間の真空度はさほどよくないということから、次期打ち上げの際には、真空層として保持するか検討中らしい。
発表については、現状の冷却システムに関する情報収集には充分な内容であった。
全般的に良く整理されたプレゼンテーションであり、質問に対して発表者は的確な回答をしていた。
ただ、発表内容とタイトルが一致しないものや、質疑応答の際に当然答えられる べき質問に答えられないことがあったのは残念だった。
「冷却システム」というセッションだったが、実際にクライオプラント関連の発表は1件だった。他のプロジェクトに含まれているものを含めて「冷却システム」というセッションができれば、その分野の研究者にはためになるのでは・・とも感じた。
ポスターセッション2の冷却冷凍では、5 件の発表があった。GM 冷凍機の蓄冷器に関するものが 2 件、クライオスタットに関するものが 2 件、カーボンナノチューブに関するものが 1 件であった。
GM冷凍機やクライオスタットの報告は、これまでも継続的に行われてきたが、その流れに沿うものであった。
カーボンナノチューブに関する報告は、液体ヘリウム中でカーボンナノチューブを 生成させ、 新しい構造体や生成機構の解明を目指すことを目指している。カーボンナノチュー ブ自身は発見されて 17 年経過したが、 ヘリウム温度での生成実験は新鮮であった。
磁気冷凍セッションでは 6 件の発表があった。
水素用磁気冷凍に関する発表が 2 件あり質量流量と冷凍能力について シミュレーションが示された。また金属系磁性材料を補完するための セラミックス系材料の特性について報告された。室温磁気冷凍に関す る発表は2件で冷媒流の依存性についての発表と磁気転移温度の違う 2 種類の作動物質を利用した冷却方式について報告があった。希釈冷凍機用磁気冷凍機の冷却試験については1K ポットに関する 問題提起があった。磁気冷凍材料としての窒化物の評価に関する発表 は HIP により作製した比熱の高いものであった。
冷凍機冷却による超伝導重力計、脳磁計、SQUID システムの報告と、レーザー核融合用のクライオターゲット開発の報告が2件、および液体窒素汲み出しポンプに関する報告があった。
超伝導重力計は電力事情の悪いインドネシアでの設置の苦労、脳磁計、SQUID システムでは精密測定機と冷凍機の相性、特にノイズ対策に苦心している現状が報告された。相当のノイズ減が実現されていたが、まだ満足のいく段階ではないようだった。
クライオターゲット開発では、冷温での試料もれとの格闘例が示され、まだ室温で出来不出来を正確に確認できない段階であるようだ。
以上の5件はいずれもまだ満足のいくレベルに到達していず、さらなる健闘が必要のようであった。
窒素用のポンプは、市販の水の汲み出しポンプの部品とブラシレスモータ、低温用ベアリングを組み合わせ成功裏に導いていた。残るは汲み出しスピードのみの段階に来ている。
各発表に対しては、質問も途絶えることなく活発議論が行えたと言える。