日米における次世代超電導線材開発の現状  
(米国 DOE Peer Review報告を兼ねて)


Current Status of US-Japan R&D on Next Generation Superconductive Coated Conductors

A超電導工学研究所、B九州大学、C電力中央研究所
塩原 融A、和泉 輝郎A、木須 隆暢B、秋田 調C
Y. ShioharaA, T.IzumiA, T. KissB, and S. AkitaC
ASRL-ISTEC, Kyushu UniversityB, and CRIEPIC
E-mail :shiohara@istec.or.jp

 1986年に高温酸化物超電導材料が発見されて以来、薄膜、バルク、線材のプロセス研究が超電導物性物理化学の研究並びにさらなる高温の新物質探索研究と並行して、全世界的で精力的に進められてきている。線材研究開発に関しては、当初、長尺線材の作製においてBSCCO(Bi2Sr2Ca2Cu3O:2223)銀シース線材がPIT(Powder in tube)法で比較的早期に実現できたことから、Bi系超電導線材開発からの取り組みが主流であった。しかしながら、超電導酸化物結晶の二次元性が強いことに起因して、液体窒素温度領域での磁場中特性が期待を下回っていたこと、線材中に占める銀の相対量(銀比)が約2以上であり、将来の低コスト化目標の達成限界コストが、約¥4−5/Amと予測された。そこで、さらなる低コスト化、高特性化等を目指し、YBCO系酸化物超電導線材作製プロセス研究開発に研究テーマがシフトされてきている。YBCO系線材は次世代あるいは第2世代線材として位置づけられ、金属基板上への成膜により作製されることからCoated Conductors と呼称されている。
 日本においては、経済産業省がNEDOを通じて2003年度から本格的にこのYBCO線材開発に重点支援を行ってきている。米国においても2002年度から開始されたACCI(Accelerated Coated Conductor Initiative)に代表されるように、DOE(Department of Energy, エネルギー省)が主体となって、YBCO系線材研究開発が精力的に進められている。日本の国家プロジェクトとして、平成19年度までに単長500m、臨界電流300A/cm-w(@77K, s.f.)、製造速度5m/h以上、将来製造コスト¥8〜12/Amを達成することが、線材開発の主たる目標値として設定されている。
 Bi系超電導線材に関しては、既にかなりの特性(Ic>100A@77K, s.f.)を有する長尺線材が市販される状況に達していることから、日米ともに、超電導線材の応用研究開発に供されている。日本ではこれまでケーブル、リアクトル型限流器、MAGLEV用マグネット、シリコン単結晶引き上げ用マグネット等に代表され、今年度からはSMES(Superconducting Magnetic Energy Strage)用コイルに供される予定である。米国ではSPI(Superconductivity Partnership with Industries)プロジェクトにおいて、発電機、変圧器、ケーブルの開発に供されている。
 本講演では、日本における国家プロジェクトでのYBCO系線材開発の目標と現状及び今後の研究課題を報告する共に、今年7月27−29日に開催された米国DOEのPeer Review (詳細試料:http://www.energetics.com/supercon04.html)において報告されたトピックスを引用し、米国における開発現状を報告する。米国の現状では、大学を中心とした基礎的なアプローチや国立研究所、民間企業の取り組んでいる長尺線材プロセス開発と共にSPIで実施されている機器開発の最新トピックスを紹介する。
 本報告の一部は、超電導応用基盤技術研究耐の研究として、新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)の委託により実施したものであり、一部は、地球環境国際研究推進事業における、高温超電導利用における交流損失の評価・削減に関する研究開発として経済産業省の補助により実施したものである。