1GHz級NMR用加圧超流動ヘリウムクライオスタットの開発

- 加圧超流動槽の温度安定化の検討 -

金属材料技術研究所:三木孝史、佐藤明男、和田 仁、松本文明、永井秀雄

神鋼 電子技術研究所:伊藤 聡、林 征治、嶋田雅生、川手剛雄

池上技術:野口隆志


1.概要

超伝導マグネットを使用したNMR分析装置では、寒剤の注液時、測定を中止するのが一般的である。これは、注液中のクライオスタット内の温度変動が、使用される線材の Ic, n 値を介して磁場ドリフト量に影響を与えるからである。金属材料技術研究所で計画中1),2)の 1 GHz級NMR用マグネットは,冷却方式として1.8 Kの加圧超流動ヘリウム冷却が想定されている。ここでは冷却温度は能動的に制御されるから、運転温度安定性が一層重要な問題となる。本講演では、異なる三つの冷却回路について、温度安定性の観点から議論する。特に注液時の温度安定性に関しては,クライオスタット構造も含めて検討した。

2.実験装置と方法

図1に試作したクライオスタットの概念図を示す。SUS製真空容器と、同じくSUS製の断熱中空セパレータで囲まれた空間が1.8K槽である。 セパレータ上には同じくSUS製の断熱壁が設けられ、内側には5枚の銅円盤が設置されている。これは、熱・流体擾乱が起こったとき、その影響が断熱壁内部に直接伝わらないような構造として設計されている。銅円盤は熱交換器としても機能する。 排気管内のJT熱交換器で予冷された液体ヘリウムは、JT弁を介して主熱交換器内に供給される。JT弁の前後は着脱可能な構造になっており、冷却回路を変更できる。また排気ラインには圧力制御バルブが設けられ、排気圧を制御できる。 実験では液体ヘリウム注液時の各部の温度変化を調べるとともに、上記、液供給ルートに関して考えられる 3 通りの冷却回路で冷却特性の違いを比較した。

3.結果

寒剤の注液前後の、銅円盤部、および1.8 K槽の温度変化の一例を図2に示す。注液は 30分間にわたったが,1.8 K槽の温度変化は5 mK以内に押さえられており,排気圧制御とセパレータ上の断熱壁および、その内部に積層された5枚の銅円盤が1.8 K槽の温度安定化に有効に作用していることが分かった。

1) A.Sato,et.al,"Design Of Superfluid-Cooled Cryostat For 1GHz NMR Spectrometer", Proc.of ICEC16, Kitakyusyu, JAPAN, 1996
2) 伊藤聡 ら, 97年度春期 低温工学・超電導学会 講演予稿集A3-15