加圧超流動ヘリウム中でのマルチセクション超電導マグネットのクエンチ挙動
1.はじめに
NMRマグネットはシステムの小型化を図るために高電流密度で運転することが要求されており,クエンチ時に損傷しない為の保護回路をより最適に設計する必要がある。我々はACロスを取り入ることで,4.2Kでのクエンチ挙動を精度良く再現できるクエンチ解析コードを開発した1)。 NMRの高磁場化が進み,1.8K加圧超流動ヘリウム中で運転する必要が生じつつある。我々は小型のマルチセクションマグネットを製作し,1.8Kでのクエンチ時の挙動を測定し,解析の結果と比較検討した。
2.マグネット諸元
マグネットはNb3Snコイル1個,NbTiコイル2個からなるマルチセクションマグネットであり,断面が平角形状の超電導線を用いている。表1に諸元を示す。各コイルの外層にSUS316のヒータ線を巻き付け,強制クエンチを起こせるようにした。
Coil1 | Coil2 | Coil3 | |
内径(mm) | 83.6 | 138.1 | 197.9 |
外径(mm) | 120.8 | 176.3 | 235.0 |
長さ(mm) | 130 | 130 | 130 |
ターン数 | 1223 | 1529 | 2078 |
線 種 | Nb3Sn | NbTi | NbTi |
3.試験結果と解析結果
1.8K中で8T発生時にCoil 2を強制クエンチさせた場合の各コイルの電圧変化を図1に示す。電圧変化に飛びがあるのは,保護回路中にダイオードを使用している為である。Coil2がクエンチ後約0.4秒後にCoil3がクエンチしその後約0.6秒後にCoil1がクエンチを起こしている。
従来方法のクエンチ解析を行った結果を図2に示す。解析と実測を比較すると,Nb3Snコイルのクエンチを起こすタイミングが解析の方が早くなっている。この違いの原因として,超電導状態のコイルはACロスにより断熱的に温度上昇するという仮定が加圧超流動ヘリウム中のNb3Snコイルでは適切でなくなっていると考えられる。図3に示すように,超流動ヘリウムの冷却効果を考慮に入れて,ACロスの3割を温度上昇に使われるとした場合,実測値と近い結果を示した。
1)尾崎他 第51回1994年度春季低温工学・超電導学会 講演概要集 P.252