神鋼 電子技術研究所:○枩倉功和、宮崎隆好、宮武孝之、嶋田雅生
金属材料技術研究所:木吉 司、湯山道也、伊藤喜久男、井上 廉、和田 仁
1.はじめに
金属材料技術研究所では1GHz級NMRマグネットの開発が行われている。このマグネットは900MHz(21.1T)までの磁場を金属系超電導線材が担う設計である。このような高磁場マグネットでは、線材には臨界電流特性もさることながら強大な電磁力に耐えうる強度が必要となる。NbTi線材とは異なりNb3Sn線材は加工後に数百℃の反応熱処理が必要で、このため強度が低下する。したがって、Nb3Sn線材では強度を確保することが課題となっている。本研究では0.2%耐力:300MPa以上を目標とし、補強材として反応熱処理の影響が小さいTa を内包したブロンズ法の高耐力Nb3Sn導体を開発した。この導体の強度について調査したので報告する。
2.実験
図1に試作した導体の断面のSEM写真を示す。この導体は1.35mm×2.15mmの平角形状で、フィラメント数は35,910本、銅比は0.5である。導体断面中央の白い部分が補強材のTaで、断面中の11%を占めている。導体には650〜700℃の反応熱処理を施した。強度測定は常温および4.2Kで引張試験を行った。
3.実験結果
図2に開発した導体の応力−歪み曲線を示す。670℃-200hの反応熱処理を施した導体では、4.2Kにおけるヤング率:120GPa、0.2%耐力:305MPa、引張強度:570MPaを示した。Taによる補強を施していないNb3Sn導体では、0.2%耐力は200MPa前後であることから、Ta補強により耐力は約50%向上し、強度の目標である“0.2%耐力≧300MPa(at4.2K)”を満足した。本導体の応力−歪み曲線で最初に現れる折れ曲がりは安定化銅、ブロンズの降伏によるものと考えられるが、これらの降伏後もTaは弾性変形するので、応力−歪み曲線の傾きが小さくなるのが抑えられ、0.2%耐力が向上していると考えられる。