Bi-2212/Agマグネットの強磁界中特性

金材研:○北口 仁、熊倉浩明、戸叶一正
日立日立研:岡田道哉、田中和英
日立電線:野村克己、佐藤淳一


 高温超伝導物質線材の最も重要な応用は超伝導マグネットである。Bi-2212やBi-2223のBi系酸化物超伝導物質は高い超伝導転移温度を持つだけでなく、極低温において非常に高い超伝導上部臨界磁界を持つという特色がある。Bi系酸化物超伝導物質のこれらの特色を生かして、強磁界発生用あるいは冷凍機冷却型のマグネットへの応用が期待されている。上部臨界磁界の制約のために従来の金属系材料だけでは実現不可能な22T以上の磁界を発生する強磁界発生用超伝導マグネットは、金属系超伝導材料を使用したマグネットと酸化物超伝導材料を使用したマグネットを組み合わせたシステムのよってのみ実現可能である。近年、酸化物超伝導材料の線材開発は大きく進展し、強磁界中での特性を改善するための様々な作製手法が提案されている。

 本発表では、Bi-2212/Ag多芯テープ線材を用いて強磁界発生用に作製したマグネットの磁界中励磁試験結果について報告する。試料は、ワインド&リアクト法を用いて作製したダブルパンケーキ積層型の小型マグネットである。マグネットの緒元を図1に示す。高さ36mm、外径88mm、有効内径30mm、総ターン数354、線材総長60m、コイル定数6.8mT/Aである。高磁界中での大きな電磁力(フープ力)を考慮し、100mm厚のAg-0.5wt%Mg合金テープを共巻きして補強とした。このマグネットについて、4.2K、20Tまでの種々の磁界中における特性評価を行った。磁界中励磁試験は、強磁界研究所(グルノーブル、フランス)の大口径ハイブリッドマグネットシステムを利用して行った。試験結果を図2に示す。コイル1に比べてコイル2,3の臨界電流値が低くなっている。コイル2,3間の接続部で大きな抵抗が観測されたことから、この臨界電流値の低下は発熱の影響によるものと推察される。20Tの外部磁界中におけるコイル1の臨界電流は140A(導体電流密度110A/mm2)であり、このときの酸化物マグネットの発生磁界は0.98Tであった。酸化物高温超伝導材料を用いて、直径30mm程度の空間に発生させた磁界としては世界最高レベルであり、今後の実用化への大きな可能性の実証となった。

  
図1 マグネット緒元            図2 磁界中励磁試験結果