概要
E1-3
過飽和固溶体からの変態析出反応を利用することにより、微細な結晶粒組織で化学量論組成を有するNb3Al極細多芯線が製造可能になった。低温での直接拡散反応を行う従来のNb3Al線材の製法と比較すると、高磁界での臨界電流密度が極めて高い。しかし、一般に、完全結晶の物質ほど歪み感受性が高いと考えられており、そのため化学量論組成のNb3Alは、その耐歪み特性が低温熱処理・ジェリーロール法Nb3Al線材よりむしろ悪くなる可能性が一部の研究者から指摘されていた。本研究では、変態処理したNb3Alの歪み感受性が、 Nb3Alの普遍的な性質としてやはり鈍いのか、あるいは結晶性の完全性のためにかえって鋭くなるのかを調べるために, チューブ法及びジェリーロール法で作製した2種類のNb/Al複合多芯線をそれぞれ急冷・変態処理し,その耐歪み特性を評価した。変態処理したNb3Al線材のBc2*は低温熱処理した通常のNb3Al線材より5T程度高く,また-0.7%の固有歪みに対するBc2*の劣化はわ
ずか8%であった。実用的に重要な12TにおけるJcも-0.7%の固有歪みに対して20%の劣化が観察されるだけである。したがって,変態処理したNb3Al線材は,高磁界でのJc特性が格段に優れているにも拘わらず,従来熱処理のNb3Al線材に匹敵した優れた耐歪み特性を保持すると結論できた。