高温超伝導体における磁束ピンニングを確率過程としてとらえ、臨界電流密度Jcの統計分布を導出し、E-J特性を定量的に記述する方法を既に報告した。本方法を用いた解析によると、通常観測される電界-電流密度(E-J)特性では、局所的磁束フローが支配的であり、電圧状態においてもかなりの部分の磁束格子はピン止めされたままであると考えられる。すなわち、通常4端子法によって測定されるJcは、最小値近傍の値であり、Jcの代表的値を必ずしも観測しているわけではない。本研究では、YBCO薄膜におけるE-J特性の温度磁場依存性を詳細に調べ、実験と理論との比較により臨界電流密度の統計分布を導出し、その温度磁場依存性を定量的に評価した。その結果、Jcの平均値は最小値に比べ1桁程度大きいと予測される事を示す。すなわち、適当なピンの導入によって、局所的磁束フローを抑止出来れば、Jcは潜在的にまだ増加できる可能性があると考えられる。